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『BRUTUS』創刊の息吹が味わえる、ロゴ設計図Tシャツが誕生。時代を超えて愛されるデザインを手掛けた、堀内誠一の仕事とは?

2025年1月。雑誌『BRUTUS』の定期購読者限定プレゼントとして、「BRUTUSロゴ設計図」をプリントした特別なTシャツを制作した。雑誌のみならず、編集部のアイデンティティをも体現するロゴデザインを担ったのは、創刊号のアートディレクター・堀内誠一。全ての雑誌好きに知ってほしい、その温かみのある手仕事について。

photo: Kanta Torihata, Tomoki Sonoyama / text: BRUTUS

45年間『BRUTUS』の表紙を飾り続ける、堀内誠一のロゴ

1980年の創刊時すでに、「ベッドを離れた瞬間から、また再びここちよい眠りに戻るまで、男たちの楽しかるべき日々のあらゆる要素が、この1冊の雑誌の中にはある」と豪語してきた、我らが『BRUTUS』。2024年に記念すべき1000号「人生最高のお買いもの。」を刊行したあとも、1026号「サザンオールスターズ」、1028号「ブルータスの東京大全」と、初心を忘れることなく走り続けている。その意志の象徴として表紙に在り続けるのが、BRUTUSのロゴだ。

今やロゴが視野に入っただけでブルータスと読めるほどの存在となっているが、45年間何も変わらず、また変える必要に迫られないロゴの強度はどこからきたのか。洗練されつつもヤンチャさを残す、そんな「人格」を想起させるフォルムはどう生み出されたのか。

デザインをしたのは、創刊号から初期のアートディレクターを担当した堀内誠一(1932〜1987)だ。

『BRUTUS』は、雑誌『POPEYE』の兄弟誌として誕生、このロゴマークは漫画『ポパイ』に登場する大男・ブルートをイメージして制作された。それぞれのアルファベットには、ギザギザとしたデザインが入っているが……。実はこれ、力強いブルートのイメージを「強い腕っぷしで大木を折ったようなデザイン」に落とし込んだもの。

1980年に刊行された『BRUTUS』の第1号表紙。当時からBRUTUSロゴは寸分も変わっていない。

『BRUTUS』だけではない。同様に創刊初期のアートディレクターを務めた『anan』『POPEYE』『クロワッサン』、今もマガジンハウスが刊行を続けるそれらの雑誌ロゴも、堀内によるデザインだ。どのロゴも、一度も変わったことがない。

温かみのある雑誌ロゴは、手仕事によって作られた

そんな数々のロゴを作り出した堀内の仕事ぶりを垣間見ることができる展覧会『堀内誠一展 FASHION・FANTASY・FUTURE』が、東京・立川〈PLAY! MUSEUM〉で4月6日まで開催している。

充実の展示物を見て回ると分かるのは、堀内が残した作品は雑誌やロゴにとどまらず、非常に多岐にわたるということ。アートディレクターとして雑誌の世界観をつくり上げる一方で、絵本作家としても『ぐるんぱのようちえん』『くろうまブランキー』といった、今も愛され続ける作品を生み出していたのだ。加えて、絵画やリトグラフ、イラスト、地図、写真、ポスターなど。およそ一人の人物が手がけたとは思えない、あまりにも広いその仕事の幅を知ることができる。

そして、この展覧会の一角に「BRUTUSロゴの設計図」の原本も展示されている。その近くには『クロワッサン』表紙のラフ、創刊前に手書きされた雑誌『Olive』のロゴアイデアも。本展のキュレーションを務めた林綾野さんに、展示からうかがうことができる堀内の仕事ぶりについて、お話を聞いた。

「『クロワッサン』の表紙ラフは近年、ご家族が発見してくださったものです。堀内さんが家で何気なくラフデザインを描いて、その後、ゴミ箱に捨てられていたものをご家族がとっておいたものだそうです。いくつかのバージョンがあり、表紙の案をいくつもシミュレーションをしてから仕上げるという、雑誌作りのプロセスが感じられます。目を引くのは手書きされた雑誌ロゴ。フリーハンドでも堀内さんが描くと、しっかり“ロゴになる”のだと驚かされます」

堀内によって描かれたデザインは、お茶目さや親しみを感じさせるものも多い。雑誌『Olive』のロゴには、こんな裏話も。

「パリに住んでいた頃、ご息女の花子さんのお友達がアルファベットの『i』の点を丸で書く癖があったそうです。その癖字の可愛らしさに着想を得たと伺いました」

多くの人の記憶に残り続けるロゴは、決して無機的に作られたものではない。手仕事による試行錯誤によって、そしてパーソナルな体験を通して生まれてきた。そこには大量生産的ではない人の温かさが、確かに息づいている。

貴重な資料ををプリントした、「BRUTUSロゴ設計図」Tシャツが誕生

手仕事を大切にしてきた堀内誠一の痕跡が残る、非常に貴重な資料がある。それが、先ほども触れた「BRUTUSロゴの設計図」だ。

「奇跡的に残っていた、堀内さん自身の手で描かれたロゴの資料です。でも、実はこの資料がなぜ制作されたのか、明確なことは分かっていません。感覚的な手仕事でロゴマークを制作されたあとに、それを整える作業のために設計図をお描きになった可能性もあります。本当の順番は分かりませんが、堀内さんの構想や制作の軌跡を、後世の私たちがいろいろな形で想像できるものだと思います」

展覧会でも展示されていた、フォントのカーブやサイズ比を指定した「BRUTUSロゴの設計図」。/『BRUTUS』ロゴ(1980年)平凡出版 ⓇHearst Holdings, Inc. ©Seiichi Horiuchi
こちらも貴重な堀内誠一自身によって描かれた「BRUTUSロゴ」。/『BRUTUS』ロゴ(1980年)平凡出版 ⓇHearst Holdings, Inc. ©Seiichi Horiuchi

「BRUTUSロゴの設計図」は、どんな優れたデザインやプロダクトも、人のアイデアと手によって生み出されていることを思い出させてくれる。そして今年1月、編集部はこの設計図をプリントしたTシャツを制作した。雑誌『BRUTUS』の定期購読者にのみ送られる、特別なプレゼントとなっている。

前面にはロゴの設計図をプリントし、裏には創刊時のコンセプトを引き継ぐ今の『BRUTUS』編集部が掲げる「NEW PERSPECTIVE FOR ALL(=新たな視点を求める、すべての人に)」というメッセージを小さくあしらった。現在に至るまで連綿と続く、創刊当時の“雑誌デザインの初期衝動”に立ち返ることのできる一枚を、この機会にぜひ手に入れてほしい。

アートディレクター・堀内誠一の展示が開催中。『anan』『ぐるんぱのようちえん』の源流を辿る