Visit

ダーウィンの蒐集品も眠る。昆虫博物学のすべてが詰まった『大英自然史博物館』潜入記!

ダーウィンの蒐集品(しゅうしゅうひん)はまだ新しい方⁉スローンやペティヴァー、バンクスなど1600年代からの標本コレクションが眠る大英自然史博物館のバックヤードに潜入!昆虫博物学のすべてが、そこにあった。

初出:BRUTUS No.1012「珍奇昆虫」(2024年7月16日発売)

1753年に設立された大英博物館。国が運営する大規模な総合博物館としては世界最古の博物館の一つだ。まずはその昆虫コレクションの歴史を簡単に振り返っておこう。

大英博物館の収蔵品の大半は、医師であり博物学者であったハンス・スローン卿のコレクションから始まっている。そのコレクションの中には、昆虫標本コレクター、ジェームズ・ペティヴァーの昆虫を含む約5000点の動植物標本があった。

その後、博物学者ジョセフ・バンクスが膨大な植物とともに持ち帰った昆虫標本を調査し、生涯にわたり1万種以上を記載したというヨハン・ファブリチウスをはじめ、1800年代に入ると「進化論」のダーウィンや、「自然選択説」のアルフレッド・ラッセル・ウォレスのコレクションの一部などが同館に寄贈された。1880年頃には増え続ける収蔵品が収まり切らなくなり、自然史部門が独立。新たに大英自然史博物館が造られる。

そんな様々な研究者たちが数百年をかけて集めてきた標本は、現在、甲虫類だけで約1000万点、蝶や蛾などの鱗翅目(りんしもく)でも1250万点という膨大な数になっている。

今回、イギリス留学時代にこのバックヤードに足繁く通っていた標本商の小林一秀さんの案内で、歴史的な収蔵品の取材をすることができた。大英自然史博物館の古い標本を展足し直す、というプロジェクトで館を訪れていた標本作家の福井敬貴さんとも合流し、ぜひ見ておきたい昆虫標本を選んでもらったのだ。

手前から福井敬貴さん、小林一秀さん
小林一秀さん(奥)と福井敬貴さん(手前)。外部研究者のために多数用意されているデスクで、気鋭の若手2人が標本に目を光らせる。

「とにかくコレクションの質と量が圧巻です。ゾウムシ研究で有名な研究者・パスコーの標本箱なんかもポンと普通に置いてあって、入っている虫も見たことないものばかり」と目を輝かせる福井さん。

「ヨーロッパは大コレクターが亡くなれば、そのコレクションを後代が引き継ぎ、さらに継ぎ足していくということを数世紀にわたり繰り返してきています。その歴史の長さがこのとんでもない充実ぶりに繫がってますね」とバックヤードを懐かしむ小林さん。

今回は、さらに特別な管理がされている「Historic Entomology Collections」も見ることができた。館の中でも、特に歴史的な価値のある標本を保管する区画で、スローンやバンクスといった、17〜18世紀頃の古い標本のみが収められていた。ダーウィンのコレクションなどは比較的新しいものとなり、通常のバックヤードにあることからも、この館の歴史の長さを感じたのだった。