随所にメゾンの伝統を宿し、
先進技術も注ぎ込む
〈ブレゲ〉の歴史は1775年、アブラアン−ルイ・ブレゲがパリのシテ島に開設した時計工房に始まる。修業先で既に腕前を認められていた彼は、自身の工房から世界初の実用的自動巻き機構ペルペチュエルや耐衝撃装置のパラシュート、トゥールビヨンなど数々の時計機構を生み出し、また革新し、時計の進化を2世紀進めたと称賛されるほどの才気を発揮した。また針やアラビア数字のデザインにおいても、今日まで続く一つのスタンダードを作り上げた高い美意識の持ち主であった。
現在のブレゲは、創業者が生み出した機構や意匠などを引用・再解釈した製作を続け、さらに革新の精神も継承する。中でも2005年に始まった「トラディション」コレクションは、初代が製作した2種類の懐中時計を明確な手本として誕生した。下に並ぶ2点が、それだ。
上はフランス革命後の資金難から立ち直るために価格の4分の1を前金制とし、予約販売した「スースクリプション」。時針のみが備わるシンプルなムーブメントは、やがて下にあるような左右対称の構造へと進化し、ケースの背面にむき出しの時針を置いて暗闇でも針に触れて時間がわかるようにした。これを名づけて「モントレ・ア・タクト(触覚時計)」。
これらを規範とし、透明なサファイアクリスタルの下にオフセットダイヤルとシンメトリー構造のムーブメントとを閉じ込めた、トラディションの独創的なスタイルが生み出された。そのダイヤルを彩る装飾は、初代ブレゲが時計に初めて応用したギヨシェ彫り。当時と同じ仕組みの手動機械を用い、手彫りされている。
ダイヤルの右下で時を刻むテンプのブリッジには、前述のパラシュートに範を採る耐衝撃機構を装備。そして上の写真に見て取れる自動巻きローターは、初代がペルペチュエルで用いた錨形の分銅を模す。またムーブメントを構成するパーツのすべてに手仕事による磨きや装飾仕上げを施して、表と裏から見せるにふさわしい最上級の審美性が与えられている。
随所にメゾンのトラディション=伝統が息づくが、同時に先端技術もブレゲは注いだ。テンプの振動を促すヒゲゼンマイを、従来の合金ではなくシリコン(ケイ素)製としたのだ。金属より遥かに精密な成形ができるシリコンは、理想の形状が得られ精度を高め、また機械式時計の大敵である磁気にも強い。この技術をブレゲはいち早く導入し、時計界をリードしてきた。技術革新なくしては、伝統の継承はなし得ないことを、現代のブレゲは周知する。
オフセットダイヤル左側で
上下に60秒をカウント
TRADITION AUTOMATIQUE
SECONDE RÉTROGRADE 7097
オフセットダイヤルに重なる円弧状の目盛りを指し示す針は、下から上へ60秒をカウントし、瞬時に0位置に戻るレトログラード秒針。敢えて左右対称を崩すように配置したことで、下側に構築されるムーブメントのシンメトリー性が強調された。そのベースとなる地板とパーツを支えるブリッジをサンドブラスト仕上げとしてプラチナ族の金属でスレートグレーに仕立て、ロジウム仕上げの歯車やテンプを浮き立たせた、仕上げと色の操作も巧みだ。ダイヤルに置く時分針は初代が考案したデザインで、他社もブレゲ針と呼ぶ古典のスタンダード。スチールで形作った後、熱することで鮮やかなブルーに発色させている。
18KWG:直径40mm/自動巻き 5,104,000円。
シンメトリーの美を堅持する
レトログラード式日付表示
TRADITION QUANTIÈME
RÉTROGRADE 7597
2020年に誕生したトラディション初の日付表示は、シンメトリーな構造美を極力壊さないために上の「7097」の秒針と同じく円弧状に運針し、月初めにフライバックするレトログラード式を採用。その強く折れ曲がった立体的な針は、露わになったパーツ類が織り成す奥行き感をより際立たせる。日付調整は、ケース左上のボタンで操作する仕組みに。レトログラード機構は、メゾンは明言していないが初代ブレゲの発明との説があり、1805年に販売された懐中時計「No.92」の日付と曜日の各表示に同機構が使われている。このブルーダイヤルは、今年の新作。アリゲーターストラップも、同じ色調のブルーに丁寧に整えた。
18KWG:直径40mm/自動巻き 5,885,000円。
ブレゲ ブティック銀座
TEL:03-6254-7211
HP:www.breguet.com/jp