Read

Read

読む

作家・穂村弘が谷根千の本屋をパトロール。東大近くの“本の街”には徒歩圏内に書店が点在

資料探しやイベントなど、作家は日頃から本屋へ足を運ぶ機会も多いという。彼らはどういう視点で本と出会い、選ぶのだろうか。本屋が密集する東京の街で、彼らの本屋巡りに密着した。ルートから実際の購入本までじっくり拝見!

Photo: Jun Nakagawa / Text&Edit: Hikari Torisawa

南北に延びる「不忍ブックストリート」に書店が点在する谷根千エリア。歴史を遡れば、夏目漱石や森鴎外の生活にも触れられる“本の街”には、「15年くらい前までは通勤電車を途中下車して、最近なら知り合いに会いに、時々来ています。でも、新しい書店が増えているのは知らなかったな」と穂村さん。

古書ほうろう(根津/東京)

掘り甲斐、通い甲斐のある雑多な品揃え。

まずは移転オープンを楽しみにしていた〈古書ほうろう〉へ向かう。店の場所は変わっても、文学、詩歌、映画、演劇、音楽の本、写真集に事典にリトルプレスまでが居並ぶぎっしり感は健在だ。

「目が滑って見逃してる本があるはずだ」と店内を回っては「見たことのない本がいろいろある」と静かに昂ぶり、松本圭二の『詩篇アマータイム』や『アストロノート』の旧版を発見しては店主と言葉を交わす。自家製ジンジャーエールを飲む間も惜しむように棚を見つめ、手を伸ばした1時間で、歌集と漫画を1冊ずつ、高野文子と大竹昭子の対談を収めた『カタリココ文庫』、イラストレーター深津真也の作品目録に映画のスチール写真も購入した。

東京〈古書ほうろう〉店内 作家の穂村さん
移転前にもしばしば訪れていたという〈古書ほうろう〉。

パトロールMEMO

開店から22年目を迎えた今年、東京大学池之端門正面へ移転。面積は5分の3ほどに減ったものの、煉瓦をあしらった壁を埋める本棚には多種多様な本がぎっちりみっちり。不忍通りの1本裏手ゆえ、入口脇の小部屋に完成した喫茶スペースも喧騒とは無縁だ。店に立つ宮地健太郎さん&美華子さん夫妻と本や音楽の話をするのも楽しい。

古書木菟(谷中/東京)

寺町にすんなり馴染む古くて新しい古書店。

早くも膨らんだ鞄を背負って向かった〈古書木菟〉は、寺社に囲まれた路地裏に立つ新店。木枠の扉を開け、細長い空間の3面に造りつけられた棚を目に、「金井美恵子も倉橋由美子もデビュー作から並んでるよ」とニッコリ。

日本から海外の文学へ、哲学、思想系へと連続する棚で詩人の平出隆や思想家ヴァルター・ベンヤミンの本をしばしパラパラ。詩歌棚では富岡多恵子を手に取って「書店というよりは、人の本棚を見るような楽しみがあるね」。

東京〈古書木菟〉店内
谷川雁、吉岡実、エリック・サティの本を購入。
東京〈古書木菟〉店内 作家の穂村さん
穂村さんが愛してやまない大島弓子『綿の国星』を見つけてこの笑顔!

パトロールMEMO

深澤誠さんと三子さん夫妻が定年退職を機に、蔵書の断捨離を兼ねて昨年末に開店。6,000冊を超える本は、日本文学、海外文学、人文、思想、哲学、近現代史から社会運動まで網羅しつつ「文庫や新書、猫本など場所が足りなくて出せていない本もまだまだある」そう。新刊は「読みたいものを仕入れ、読んだ場合は古本として販売しています」。


往来堂書店(千駄木/東京)

引き込む文脈棚で書店の進化を牽引する。

この日最後の目的地は〈往来堂書店〉。全国にファンを持つ新刊書店の自慢は、テーマやトピックに紐づけられて編み上げられる文脈棚だ。漫画コーナーで萩尾望都『ポーの一族』の新刊に驚きつつ、ちばあきおからコージィ城倉へ引き継がれた『プレイボール2』6巻を確保。絵本を吟味し、ポルトガルの絵本を1冊。

日本文学の棚では堀江敏幸を抜き出し、人文、自然科学から、谷根千&東京本を経て文庫コーナーへ足を進める。「新刊書店では文庫と漫画を重点的に。連城三紀彦、泡坂妻夫とか、読み逃していた本に出会えると嬉しいね」とさらに3冊。ミロコマチコの絵が彩る店のオリジナルエコバッグに本を入れ、「ちょっと西日暮里の〈書肆田髙〉に寄ってから帰りますね」と、不忍通りの雑踏の中へ歩き去っていった。

東京〈往来堂書店〉店内 作家の穂村さん
絵本『ぼくのおじいちゃん』は構図が気に入って購入。
東京〈往来堂書店〉店内
カレル・チャペックに梨木香歩、ミステリーの文庫もチェックする。

パトロールMEMO

2代目店主の笈入建志さんは、人文、芸術とビジネス書、店全体をプロデュース。児童書や漫画など数人の担当がいる。縁ある著名人が選書する「D坂文庫」などのフェア、『往来っ子新聞』での本紹介も好評だ。一般書をカバーしつつ、書店や本にまつわる本やリトルプレスも多い。エコバッグはサイズや色も豊富。Tシャツもある。