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やっぱり始まりは、ブルーノート!社長のドン・ウォズが語るレーベルのこれから

ジャズ初心者でも“ブルーノート”と聞けば、ピンとくる人も多いはず。創立から85年経った今でもその名に陰りがないのは、やはりジャズの王者たる所以(ゆえん)。その魅力をいま一度掘り下げてみる。社長のドン・ウォズにレーベルのこれからと野望について聞いた。
初出:BRUTUS No.1002「JAZZ is POP!!」(2024年2月15日発売)

photo: Shin-Ichi Yokoyama / text: Katsumi Watanabe / special thanks: down beat

社長!これからのブルーノートはどうなっていきますか?

「2024年1月のピアニストのイーサン・アイヴァーソンを皮切りに、2月はビブラフォン奏者のジョエル・ロス、3月がノラ・ジョーンズに、ギタリストのジュリアン・ラージ、そしてサックスの巨匠であるチャールス・ロイドも新作を発表。9月頃までのリリース日程が詰まっていて、もう大忙しだよ。レーベル史上、最高の年になるだろうね」

発掘音源で新たな形で蘇るソニー・ロリンズの名盤

過去のマスターテープを基に、新たにマスタリングを施して現代に蘇らせる「Blue Note Tone Poet」LPシリーズからは、ジャズの歴史が少し変わるような発掘作が登場。

「マスターテープを保管する倉庫があって、缶ケースに入ったリールが積み上がっているから“アイアンマウンテン”と呼ばれている。そこから、なんと1957年のソニー・ロリンズのライブ盤『A Night at the “Village Vanguard”』のオリジナルマスターである7.5ipsテープが見つかったんだ。レコーディングエンジニアのルディ・ヴァン・ゲルダーは録音会場のジャズクラブに小型で回転速度の遅い7.5ipsテープを持ち込んで録音。それを自身のスタジオで、通常の回転速度に転換してマスターを作った。

ルディ以外、元の7.5ipsテープを見たことがなかった。見つかったマスターのラベルには、創業者のアルフレッド・ライオンによる直筆でタイトルが書いてあった。それを現エンジニアのケヴィン・グレイが丹精込めて通常速度に戻し、リマスターしたんだ」

新世代のミュージシャンたちとレガシーをつなげることが、レーベルにとっての最重要課題だという。

「例えば、1960年代のハービー・ハンコックやウェイン・ショーターによる革新的な作品だって、ゼロからすべて生まれたわけではない。彼らは50年代のセロニアス・モンクやアート・ブレイキーの作品に学んだはずだ。本当のレガシーというものは、どの時代においても、その時の若いミュージシャンたちが、自分たちの前にいた先駆者たちの音楽から学び、血肉化するもの。新しい世代を育み、継承させるために、やはり古い音楽は必要なんだ」

〈ブルーノート〉社長・Don Was
photo:Myriam Santos

耳と心をオープンにして、ライブで新しい音楽と出会う

王道から実験的作品まで。多くの録音作を発表しながらも「ジャズはライブが重要」と断言する。

「自分でもジャズクラブやライブハウスに足を運ぶんだ。最近はアメリカでも、とにかく若いリスナーが増えているね。ドミ&JD・ベックのライブなんか、ティーンエイジャーも多い。2人を聴き始めたキッカケは、アンダーソン・パークとの共演だったかもしれないけど、結果的にジャズに魅了されることは、すごく面白いことだね」

2024年は現社長独自の企画もある。「若いミュージシャンたちで結成したブルーノート・クインテットのツアーもある。全米35都市を回る中、半分はジャズクラブ、残りはロッククラブでのギグになる。ビギナーでも楽しめるツアーになると思う。日本にも連れていきたいね」

ドン・ウォズ、2024年の野望、その一部

『nublues』 Joel Ross
カッサ・オーヴァーオールとの共演をはじめ、多くの話題作に参加するビブラフォン奏者。4枚目の新作を発表。「ブルースの新しい解釈だね。アルトサックス奏者のイマニュエル・ウィルキンスにも注目」
『Visions』 Norah Jones
通算9作目の新作。「彼女は素直に自分を表現する。前作で描いたミッドライフ・クライシスを乗り越え、新作では晴々とした声を聴かせてくれる。様々なジャンルを超えた“これぞ、ノラ・ジョーンズ!”という作品だ」
『Speak to Me』 Julian Lage
現代最高峰ギタリストによる、1年ぶりの新作は全曲書き下ろし。ブルースやフォーク、ゴスペルとジャズのバランスを絶妙に保った意欲作。「ジュリアンはリスナーとしても素晴らしく、よく音楽話をするんだ」
『Point of Departure』 Andrew Hill
「Tone Poet」や「Classic Vinyl」など、復刻シリーズを手がけるエンジニア、ケヴィン・グレイによるリマスター版。創立85周年記念の日本独自CD再発。「ケヴィンのおかげで、音質の評判が良くなってきた。感謝だね」