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【珍奇の現場】〈Cactus Store〉と〈Tu es mon Tresor〉による熱海の庭園が完成!

珍奇植物、珍奇昆虫、珍奇鉱物などの「珍奇シリーズ」の編集を担当する川端正吾さんが、そのビザールな現場からホットな情報を発信!第13回の今回は、LAで活動するランドスケープユニット〈Cactus Store〉が日本のファッションブランド〈Tu es mon Tresor〉と共同で手がけた熱海の庭が完成!

artwork: Keiji Ito / text: Shogo Kawabata / special thanks: Masako Imamura

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ファッションブランド〈Tu es mon Tresor〉が進める、熱海にある建築家・吉村順三設計の邸宅の改修計画。その庭作りをLAをベースに活動するランドスケープデザイナーユニットの〈Cactus Store〉が担い、以前、そのプランをこの連載で紹介したが、今回、ついにその施工が完了した。

「邸宅の窓から外を眺めていると、吉村さんは、熱海の海、山、半島などの遠景に目を向け、芝生が広がるだけの近景は、邸宅の生活者のために余白として残しているように感じました。私たちはその余白のために、新しい庭園を設計しました」と〈Cactus Store〉代表のカルロス。

ヘゴ(Cyathea spinulosa)をメインとして使った庭は、まさに以前見せてもらったイメージスケッチそのままの、エキゾチックな風景だ。

 「スケッチには魔法のような力があります。CGのような味気ない模倣物ではなく、手描きのスケッチは私たちデザイナーの感覚や感情さえも伝えるものです。デザインのプロセスで、自分自身の感覚や感情に忠実であることは、デザインに真実味をもたらします」

そして、今回の植栽では、植える位置、方向、角度に至るまで、特別な注意を払ったという。

「大部分を芝生が占めていた既存の庭園を活かしながら、限られた範囲のみ手を加えることで全体の印象をアップデートする必要があったため、一つ一つの植物が完璧に植えられていることが重要でした。その一方で、作為的になりすぎないように、完璧な“間違い”や“違和感”を庭園の構成に持ち込みました。『初代オーナーだったという女性実業家が生きていたら、彼女にこの庭園はどう映るのか?』『自分の娘のような幼い女の子に庭園はどう映るか?』『私たちのデザインの考え方は、鑑賞者に伝わるのか?それをどう示唆的にとどめるか?』。そんな、難解で深遠な、けれども実りある問答が〈Tu es mon Tresor〉のチームと繰り広げられました。

そして、花壇にはブラジル人ランドスケープデザイナー、ロバート・ブール・マルクスとモダニズムをつなぐ存在として選ばれたブロメリアたちが広がる。日本でブロメリアを露地植えするというのはなかなか見たことのない光景だ。温暖な熱海ならではの実験的な植栽。この花壇に使われた植物は、『珍奇植物』特集でもお馴染みのブロメリアの第一人者、スピーシーズナーサリー・藤川史雄さんの温室からやってきたものだという。

「藤川さんの温室でブロメリアのコレクションを見て、あまりの素晴らしさに、私たちは言葉を失いました。その瞬間、このブロメリアこそが、熱海の邸宅を日本のみならずブラジルをはじめとした世界のモダニズムの文脈に接続させようとする〈Tu es mon Tresor〉のキュレーションを、より生き生きさせるものだと確信しました」

この挑戦のために、ディッキアやヘクティア、エンコリリウム、ネオレゲリア、ホヘンベルギアなど耐寒性の強そうなグループの中から特にタフそうなものを選んだという。藤川さんにも今回のブロメリア露地植え花壇について聞いてみた。

「カルロスたちは、うちの温室の前の空き地に、実際の花壇の形を地面に描いて、鉢を並べながら、あーでもない、こーでもないって楽しそうにやってましたね(笑)。ディッキアはうちでも通年露地で管理しているものもあるから大丈夫だとは思うけど、あとはちょっと実際に様子を見ながら試してみる感じになるんじゃないかな、と。ブロメリアがそういう屋外の植栽でもうまく使えるようになったら、また可能性が広がって楽しみですね」

新しいガーデニングの可能性に挑戦する花壇の、この先も楽しみにしたい。

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