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【珍奇の現場】美しき、ゴキブリ卵鞘デザイン学

珍奇植物、珍奇昆虫、珍奇鉱物などの「珍奇シリーズ」の編集を担当する川端正吾さんが、そのビザールな現場からホットな情報を発信!第12回の今回は、2024年716日に発売した「珍奇昆虫」でも、特別袋とじ企画として特集したゴキブリにまつわるお話をご紹介します。

artwork: Keiji Ito / photo: Shizuma Yanagisawa / text: Shogo Kawabata

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「ゴキブリの美しさ」に迫った袋とじブック・イン・ブックを作ってもらったゴキブリスト・柳澤静磨さんに聞いた、さらなるゴキブリの魅力。その卵鞘(らんしょう)のデザインの美しさも見逃せないポイントだそう。

川端正吾

卵鞘というと、卵を産むときに卵を守る鞘みたいなもの、というくらいのイメージでしたが、こんなにいろいろなデザインがあるんですね。こんなに多様なデザインになるのはなにか理由があるんですか?

柳澤静磨

卵鞘の産み落とし方や落とす場所、敵からの防御、卵鞘内の水分保持など様々な要因によって形や色彩が違います。特に、産み付ける場所や敵からの防御の形は本当に多様で、例えば樹皮に産み付けられる卵鞘にもいろいろな形があって、薄く平べったく樹皮と一体になるもの、米俵のような形でそのまま貼り付けられるものなど様々です。だからこそ『こんなタイプの卵鞘もあるのか!』という驚きがあって面白いです。

水分保持については、メスが卵鞘を腹部につけたまま運び、水分を与えるタイプの卵鞘は薄く、逆にメスがどこかに産み付けていくタイプは水分が抜けないように厚くしっかりした卵鞘のことが多いです。

こうしたポーチ型の卵鞘を産むことはゴキブリの大きな特徴のひとつ。ゴキブリと共通の祖先を持つカマキリの仲間も卵鞘(卵嚢と呼んだりもします)を産みますが、ゴキブリの卵鞘とは形や産み付け方が違います。

世界に4600種以上いるゴキブリは、外見や生態の多様性はもちろん、卵鞘の多様性も注目なんです!

川端

どれも造形として純粋に面白いですね。いくつか柳澤さんの「推し鞘」を教えてください!

柳澤

推し鞘ですか……!いくつもあって難しいですが、あえて言うならばシナゴキブリの卵鞘は推しですね。中国、ロシアに生息する体長17〜31mmほどのゴキブリです。

シナゴキブリは卵鞘を産みだした後にしばらく腹端にくっつけたまま持ち歩くのですが、そのための持ち手がついているのが面白いんです。このメス成虫がまたコロッとしていて可愛らしくて、卵鞘を持ち運びながらテコテコ歩く姿はたまりません。

あと外せないのはチビゴキブリの卵鞘。日本の四国、南西諸島の森林内に生息する体長6〜10mmほどのゴキブリです。実は私たちの研究で分かったことなのですが、チビゴキブリは一度卵鞘を腹部から突き出し、90度回転させ、腹部にしまいます。その後、樹皮などに卵鞘を産み付けて隠します。

この『一度腹部にしまった卵鞘を産み付ける』という産卵様式が知られているのは世界でチビゴキブリだけです。産卵様式だけではなく卵鞘も変わっていて、継ぎ目を中心に面によって形が違うんです。これは腹部にしまうときに、メスの腹部の形にフィットするようになっているのではないかと考えています。卵鞘界の異端児です。なんでこんなことをするのか、まだはっきりとは分かっていないんですが、今後調べを進めていきたいと思っています。

まだまだ知らないことの多いゴキブリの魅力。ぜひ「珍奇昆虫」袋とじブック・イン・ブック「Beautiful G Handbook」の封印を解き、新たなトビラを開いてみてほしい。

BRUTUS 1012号『珍奇昆虫』表紙

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