Visit

『BIWAKOビエンナーレ2025』、近江八幡で開幕。江戸時代の町家がアートで甦る

920日(土)から1116日(日)まで滋賀県近江八幡市で開催される『BIWAKOビエンナーレ2025』。300年の歴史を持つ造り酒屋や醤油蔵を舞台に、8カ国69組のアーティストが作品を展開する。四半世紀続く芸術祭の現場を歩いた。

text: BRUTUS

3つのエリアがつむぐ異なる物語

『BIWAKOビエンナーレ』は、2001年から続く日本でも歴史の長い地域芸術祭のひとつだ。総合ディレクター・中田洋子さんキュレーションのもと、近江八幡市内の空き町家や歴史的建造物を修繕・清掃し、アート作品をインストールすることで会場として再生、一般公開している。今年のテーマは「流転〜FLUX」だ。

会場は大きく3つのエリアに分かれる。メインは近江八幡旧市街地。豊臣秀次によって築かれた城下町を基礎とし、近世では近江商人発祥の地として栄えた。江戸から明治期にかけて建てられた12の町家や蔵が、現代アートの展示空間として生まれ変わる。

旧市街地を実際に歩いて回ると、歴史的な町家と現代アートの距離の近さに驚く。路地を曲がれば次の会場、格子戸の向こうにまた別の作品となる回遊性こそが、この芸術祭ならではの体験だ。

注目作品は江頭誠による花柄毛布を素材にした大型立体作品。「いつもポップな作品だから、今回はみんなを驚かせたくて、少しホラーっぽくした」と作家が語るとおり、日本人の生活に密着した素材を使いながら、新たな表現に挑戦している。一方、奥中章人のバルーン状インスタレーションは、重厚な歴史建造物との対比で軽やかな「流転」を表現した。

今回初めて会場に加わったのが、聖徳太子ゆかりの霊場・長命寺だ。標高約250メートルの山腹から琵琶湖を一望するこの宗教空間で、中国人作家・陳見非は杭州の雷峰塔をモチーフとした作品を本堂に展示している。

そして、もっとも特異な存在が沖島エリアだ。琵琶湖に浮かぶ日本唯一の淡水湖有人島で、漁業が盛んなこの島に点在するアート作品は、自然と共生する暮らしの中に溶け込んでいる。たとえば、周逸喬による中国の祝祭的な絵柄をモチーフとしたバルーン作品が、島の風景に異国情緒を添える。

2025年、関西が注目される年に

重要文化財クラスの建築物を会場とするため、展示には厳格な規制がかかる。アーティストたちは古い梁を傷つけないよう、床に重量物を置かないよう、そして歴史的価値を損なわないよう、細心の注意を払いながら作品を制作する。この制約こそが、逆に創造性を刺激し、建物と対話しながら美しい形を模索する原動力となっている。

総合ディレクターの中田さんは、この街と出会った2002年に遡る。「私が育った60年代、70年代の雰囲気がまだ残っていて、『すごく懐かしいな、この街』という思いがありました。そのときから、絶対この街で(芸術祭を)やりたい、と思って」

当初5軒から始まった会場が、今では地域に根ざした取り組みとして定着。使用後の建物がカフェやシェアハウスに転用されるなど、アートを通じた地域再生の好循環が生まれている。

大阪・関西万博、びわこ国体が開催される2025年。関西全体が注目を集めるなか、『BIWAKOビエンナーレ』も新たな意義を帯びる。中田さんは語る。「縄文時代から現代まで技術は進歩し続け、コンピューターやAIの時代になっても、人間の心の本質は全然変わらない」。「流転」のテーマが示すように、すべては変化し続ける。しかし、その変化の中にこそ、失ってはならない本質が宿っているのだ。