“クロモリ”フレームの自転車は、その人の嗜みを測られるモノ。自転車道楽の深淵へ

なにしろクロモリ好きなもので。

Photo: Satoshi Nagare / Text: Takehiro Kikuchi

自転車道楽において、クロモリフレームの自転車は、その人の嗜みを測られるモノだ。クロモリとはフレーム素材のことで、クロムとモリブデンを添加したスチール合金のこと。スポーツバイクの歴史において、最も古くからあるオーセンティックな素材だ。

クロモリフレームの魅力は、フレーム素材の指針となる弾性率が高く、加工性とコストパフォーマンスに優れていることにある。どんなにカーボンフレームが進化しても、根源的な部分でクロモリに勝てない要素なのだ。一般にクロモリフレームはしなやかな乗り心地だというが、競輪選手が使っているフレームのように硬く感じさせることも自在である。

また、パイプの接合部にあるラグの美しさに惚れ込む人も多い。イタリアンカット、コンチネンタルなど、形状にもそれぞれ様式美があり、ヤスリで一つ一つ仕上げていくので、作り手の個性や技術が出る。なので、それを見ているだけで十分に楽しめる。しかし、作るのが本当に難しいのはパイプ同士を直接溶接するラグレス方式だ。どちらがいいかは好みだが、自由度が高い分だけ、なにを選択したのか審美眼が問われるというわけだ。

写真のバイクは名古屋市の近郊にある〈ドバッツ〉だ。ビルダーの斉場孝由さんが作る自転車は、自転車マニアでなくとも、立ち姿の美しさを感じられるだろう。

〈ドバッツ〉の定番モデル《フィービー》
《フィービー》はラッピングとフィレットブレイズという溶接技術を駆使した〈ドバッツ〉の定番モデル。キャリアやステム、マッドガードを装着したモデルも可能。フレーム&フォーク¥220,000〜

「注文をいただいて、いちばん時間を使うのは、オーナーが乗ったときのフォルムを考えること。体に負担がなく、最も効率的なスタイルを探し、それに合わせてフレームを作り、部品を選択します」という。

こんな贅沢ができるのはカスタムフレームだからであり、中でもいちばん自由度の高いのが、クロモリである。カーボンは速さを求めるなら最強の素材だ。けれど、心地よく走るための第一条件は、軽さや強靱さよりも、オーナーの体格や体力、目的に合っていることだ。

スーツに譬えるなら、カーボンはハイブランドの既製服、クロモリはテーラーメイドである。どちらも甲乙をつけがたい魅力はあるが、流行やスペックだけのサイクリングを卒業したなら、一度はクロモリでカスタムフレームを作ってみてはいかがだろう。きっと一本で満足することはないだろう。なぜなら、そこが自転車道楽の深淵への入口なのだ。