緊張感も温かみもあって、気持ちがしゃんとする
陶芸家の、故・黒田泰蔵さん作の白磁の花器です。20年ほど前、自由が丘の小さなギャラリーで個展を開催中の泰蔵さんに「これがいいから」と薦められて、30代の私にとって初の清水の舞台っていうんですか。飛び降りる気分で購入したものです。以来、いつも部屋の中心にあって、最初はうれしくていろんな花を生けていました。
40代のある日、知人に連れられて東京・外苑前の〈ごはんやパロル〉に行ったら器がどれも泰蔵さんの作品で、さらに、日常使いされている光景にびっくり。
その後、店主の桜井莞子さんに誘ってもらって、静岡県伊東市にある泰蔵さんのアトリエを訪ねる機会がありました。記念にもう一ついただきたいなと、その時は自分好みの、繊細でふくよかな梅瓶を選びました。1990年代初めに、45歳で「轆轤成形」「うつわ」「単色」と決めて白磁だけを作陶するようになった泰蔵さんがいつだったか、「自分に制限を課すことで、自由になれた」と話してくれました。削ぎ落とすことで、初めて自分と向き合えるってことかなと私なりに解釈したその言葉が、白磁を見るとふと立ち上がります。そのたびに、へたなものは生けられないなって、気持ちがしゃんとします。