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くるり・岸田繁と“音音交換“で、幻の鉄道走行音(モーター音)を手に入れませんか?

BRUTUS1000号記念企画、「あしたのベストバイマーケット」はクリエイターによる夢の商品が揃うマーケットプレイス。そこでくるり・岸田繁が提案するのは、彼が趣味として収集している鉄道の音、通称“鉄道走行音”の交換を行える、ニュータイプなショップ。趣味や収集の類いはほとんどの場合、お金を払うか足を運べば叶えられる。が、鉄道走行音は基本、自らでフィールドレコーディングをしないと手に入れられないもの。そもそも鉄道走行音とは何たるか、そして彼がハマった所以を聞いてみることにした。

photo: Itsumi Okayasu / text: Roman Naya

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くるりのフロントマン、岸田繁。昨年には、オリジナルメンバー3人が再集結し、楽曲を制作する模様を追いかけた初のドキュメンタリー映画『くるりのえいが』が公開された。文字通り映画化されるほど音楽家として、第一線で活躍し続ける彼だが、熱心に追いかけ続けている趣味がいくつかある。

それは食、お酒、野球にはじまり、特定の動物や昆虫といった研究に近しい分野にまで及ぶが、今回は、岸田さんが深海に近い域まで潜ってきた「電車」が主題。なかでもとりわけ造詣が深い鉄道の音、通称“鉄道走行音”について深掘りする。

くるり・岸田繁

BRUTUS

今回は鉄道、中でも“鉄道走行音”をテーマにショップを出されるのですね。まずは鉄道走行音がどういうものなのか、お伺いできますか?

岸田繁

まあ、そうですよね。『BRUTUS』さんにしたっていくらなんでもニッチすぎる提案だったなあ……と、僕も思いますよ。嚙み砕いて説明するなら、鉄道オタクと呼ばれるジャンルのうちのひとつ。有名なのがいわゆる乗るのが趣味な乗り鉄、撮るのが趣味な撮り鉄ですね。

で、僕の言う音鉄というのは、鉄道にまつわる音を聞いたり収集するというジャンルです。

BRUTUS

音ですか。いわゆる、鉄道の発着時のメロディやドアチャイム音、車内アナウンスのような。

岸田繁

そうですね。駅構内や車内にもたくさんの音があふれていますし、ほかにも「ガタンゴトン」というレールの継ぎ目の音が好きな方もいらっしゃいます。

私は、モーター音や走行音、あとは空気系の音が好きです。ブレーキはエアやから「プシュー」とかね。なかでも、発車するときのモーターの「ウィーン」っていう音がとりわけ大好き。

モーター音は、制御装置や冷却ファンの構造などで、車両ごとに大きく音が変わるんです。僕が好きな鉄道走行音の多くは1950〜60年代に製造された古い形式の車両。電車のモーター音はよく聞いてみると和音になっていて。

少しマニアックな話ですけど、例えば僕が好きな阪急電鉄の3300系電車のモーター音を譜面に起こしてみると、ドとラのフラットの和音で、不協和音とは言いませんが、少し不安定な響きをしているんです。

BRUTUS

和音や響き、岸田さんならではの音の捉え方ですね。鉄道の趣味が開花した頃からそう捉えていたんですか?

岸田繁

子供の頃は感覚的に捉えていましたが、それを音楽的に説明できるようになったのは音楽を始めてからですね。

小さい頃から、いわゆる電車好きの少年でした。僕が2歳半ぐらいの頃まで、京都は市電が走ってたんですね。家の近所には市電の大きな車庫があった。よく、見に連れて行ってもらっていました。

あと、おばあちゃんが大阪の千里に住んでいたので、阪急電車に乗って、梅田から地下鉄に乗り換えて行くのが楽しみでした。阪急の特急に乗って車窓を眺めていると、途中の桂駅に嵐山線のローカル電車が停車してるのが見えるんですよ。嵐山線は本線で使われなくなった古い車両が走ってたので、特急の新しい車両よりもそっちに乗りたいって子供心に思って。

石を手に持つくるり・岸田繁
「京都の街の敷石は、鉄道のレールに敷かれていたものを再利用しているんだよね」と、話す岸田さん。

BRUTUS

かっこいい、乗ってみたいというところから興味は始まったんですね。そこから年を重ねて、音楽をやって、音の聞こえ方が変わってきて。より面白さを感じるようになったと。

岸田繁

そうですね。自動車でマニュアル車やったら、ギア比を変えますよね。そこで走行音に変化が生まれる。電車の車両の場合は、ギア比は固定なので変わらない。一速二速のような概念がないんです。つまり、積んでるモーターのトルクや特性、あとは流す電流の違いだけで音に差異が生まれるんです。

例えばトップスピード重視の特急車両は、ギア比が小さい。反対に加速重視の各駅停車とかの車両は、ギア比が大きい。それによっても、走行音が全然変わってくるんですよね。

BRUTUS

短距離走と長距離走のようですね。こうして聞けば聞くほど、どんどん興味が湧いてきました。

岸田繁

今は、交流電源の周波数の幅を変えることで、速度をコントロールしている車両がほとんど。僕が好きな鉄道走行音は可変抵抗で速度制御していた、直流モーターで走っていた時代の車両の音。ざっくりと区分すると、車両や年代によって全然サウンドが違うわけです。

阪急京都線3300系 #3813のひと駅間走行音

1967(昭和42)年より製造され、長らく京都本線の主力として活躍したこの車両も、寄る年波には勝てず引退まで秒読み。東洋電機製のモーター音が唸り、前述した短六度音程のハモり(ドとラのフラットの和音)を聞くことができる。現在8連1本、7連3本が京都本線で最後の活躍中。

電車は手に入れられないもの。だからこそ、趣味としての奥が深い

BRUTUS

ワインや音楽、車と近しい感覚でお話を伺っています。そうやって、深くまで知っていく性分はいつ頃から発揮されるように?

岸田繁

性格とかもあると思うんやけど、子供の頃からそうです。極論、大人は自動車を手に入れられるじゃないですか。お金を貯めてローンを組めば。

仮にクラシックカーであっても、頑張って探して当時の部品を手に入れたりとか、苦労すれば手に入れることができる。旅客機は難しいですけど、自家用機っていうジャンルはあるので。機体を飛ばすことは可能です。船舶も同じですね。でも、鉄道って、難しいんです。

BRUTUS

たしかに。お話を聞く前に、ぼーっとレコードやカセットのレアな音源で考えていたときに、個人のフィールドレコーディングが主体の鉄道走行音はそうもいかないよなと、考えていたので合点がいきました。

岸田繁

今回は僕が持っている秘蔵の鉄道走行音と、僕が探している鉄道走行音を交換するショップを開きますよね。趣味で鉄道走行音を収集している人が音声ファイルを公開する文化は、割と古くからあったんです。

僕が探している13の鉄道走行音って、1953年から60年くらいまでの、ほんの数年間につくられたタイプの、しかも私鉄や公営地下鉄の鉄道車両の音なんですね。音楽の世界に例えるならばイタリアの60年代プログレッシブロックだけ、みたいな。

そういう非常にニッチな世界……『BRUTUS』さんにちょっと申し訳ないなと思うぐらいニッチ。だから、もう何十年も探してきたんですけど見当たらない。

BRUTUS

それでも見当たらない。これはちょっと秘蔵だから、自分だけのものに、ということなのでしょうか。

岸田繁

それもあるかもしれませんし、まあ、単純に需要がないだろうと思ってる人もいるかもしれません。あまりにもニッチすぎるので。あるいは、録音状態が悪いから人様に聞かせられるものではないだろうとか。

それでも聞いてもらうためには、時代的にマスターがカセットテープか8ミリ映像テープとかになると思うんで、デジタルに変換して、ノイズを取ったりとか。そういう手間のことを考えると面倒くさいっていうのもあるのかも。

BRUTUS

こうして聞いていると岸田さんの熱量が伝わるので、なんとしてでも幻の鉄道走行音を聞いてもらいたい気持ちです。

岸田繁

それは本当にありがたいです。正直、その気持ちをわかっていただけるだけで、すごく嬉しいです。初めてこの気持ちを人にちゃんと話したかもしれないです。

BRUTUS

ただ、この13の鉄道走行音が集まってしまうと、岸田さんの楽しみがなくなってしまいそうで不安にもなります。ちなみに、今の鉄道で楽しめているジャンルはあるんですか?

岸田繁

自分が夢中になった車両や、その走行音に関して言いますと、今でも変わらず大好きです。ただ最近の鉄道車両に関しては、興味が薄くなっていってますかね。もちろん多少は意識はするけども。

それは音楽に例えるならば、昔のロックは好きやけど、最近のはようわからんわっていってるおじさんたちと一緒の感覚です。とはいえ鉄道自体は好きなので、今までそこまで意識してなかった駅弁ですとか、色んなダイヤのこととか、面白いと思ったことについては見聞を広げてます。

あ、あと余談ですが、品川ー東京間の新幹線に乗車する人は見てみたいですね、本当に一度も見たことがないので(笑)。

“音音交換”で、お互いに幻の鉄道走行音(モーター音)を手に入れませんか?

ショップ名:くるり・岸田繁と幻の鉄道走行音音源トレード権
価格:100円

「くるり・岸田繁さんが長年集めている幻の鉄道走行音音源をお互いに交換できる権利」を販売。岸田さん所望の音源のリストはショップサイトにて掲載。交換対象者は、岸田さんが所望する1953から60年までに走行していた私鉄の鉄道車両、13形式の走行音音源や音声入り映像を1つ以上お持ちの方(1つでも可)。詳細はショップサイト参照。

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