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〈BEAMS JAPAN〉が厳選。現代に語り継がれる、日本の“特上”な伝統工芸品たち

BEAMS〉が注目する国内の優れたものづくりとその背景にある物語を紹介する本連載。民藝、雑貨、アートといった日本の豊かな文化的資源を現代の視点で再発見する。第4弾は、日本各地の伝統品のうち「特上」なアイテムをひとつずつ見ていく。第3弾はこちら

text: Ayano Yoshida

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職人技の宝庫、日本

国が指定する伝統工芸品の数は200品目以上。これらに共通するのは100年以上続く伝統技術による手工業製品で、地域に根ざした日用品であることだ。しかし定義を満たさずとも、伝統的な技術を用いた品々は日本に数多く存在する。

これらが現代まで残り続ける背景には、単なる文化保護を超えた実用性がある。使い込むほどに変化する設計、現代生活にも適応する普遍性。完成品として販売されるのではなく、使用者とともに成長していく関係性が、工業製品との決定的な違いといえる。

日本各地で多様な伝統が育まれた要因は地理的特徴にある。南北に長い地形から生まれる気候・文化の違いが、各地固有の技術を発達させた。

〈BEAMS JAPAN〉による《TOKUJO BEAMS JAPAN》は、こうした現代的価値を持つ工房を厳選したプロジェクトだ。培った審美眼を活かし、日本の手仕事を現代の視点で再編集する。9月には新たに選んだ工房のアイテムを発売。そのうち8工房を解剖していく。

職人技と洗練されたデザインが融合した銘品

選定された工房を分析すると、技術継承の方法論に興味深いパターンが見える。一度途絶えた技術の復元、素材の変更による適応、用途の拡張による現代化。それぞれ異なるアプローチで伝統を現代につなげている。

鹿児島県の〈薩摩切子〉は1985年に復元された技術だ。江戸時代末期に途絶えた後、わずかな文献と現存する作品から再現された。透明ガラスに色ガラスを重ね、手作業で複雑な模様を施すことで、境目に「ぼかし」と呼ばれるグラデーションが生まれる。

〈美の匠 ガラス工房 弟子丸〉はこの復元技術をさらに発展させた。黒ガラスは光を吸収する特性により、カットの陰影を表現するのが技術的に困難とされる。刃物の角度・深さ・連続性を緻密に計算し、光と影のコントラストを際立たせる技術を確立した。

明治時代から続く〈小倉織物〉は、素材変更による適応を選んだ。伝統的な綿織物をシルクで再解釈し、ジャカード織物として現代化。特殊な織り組織を用い、他では織れない薄い紋紗(カラミ)で織った商品。日本最後の後染め洋装紋織工房として実現した、シルク100%のストールを展開する。

東京都江東区深川の〈桶栄〉は、用途拡張による現代化を図った。江戸時代から〈江戸結桶〉を製作してきた工房が、樹齢300年の椹(さわら)を使った伝統的な桶に加えて、洋白銀を組み合わせたボトルクーラーを開発。接着剤を使わず木の特性だけで組み上げる構造は変えずに、現代的な用途に対応した。

制約から生まれる表現

長崎県の〈三川内焼〉を手がける〈平戸松山窯〉は、400年以上続く技法を維持している。透明な白磁に藍色の呉須で絵付けする単色表現に徹する理由は何か。多色使いが主流の現代陶芸において、あえて色数を絞ることで、筆の濃淡や線の太い細いだけで立体感や奥行きを表現する技術が磨かれた。色に頼らない分、職人の筆技に全てが委ねられ、結果として他では見られない繊細な表現力を獲得している。

1911年創業の〈佐々木セルロイド工業所〉も制約を価値に転換した例だ。セルロイドをはじめとした樹脂素材に100年以上こだわり続ける同社。そのサングラスとブルーライトレンズメガネは、アセテート樹脂を使用し、加工の困難さを逆手に取った十数時間の手作業による磨き上げで独特の風合いを生み出している。

石川県で400年続く〈浅野太鼓楽器店〉が貫く「音を育てる」という考え方は、太鼓を完成品として販売しない姿勢に表れている。使用環境や演奏者に合わせた調整を前提とし、湿度や温度で革の張り具合が変わるため、納品後も音の変化を追い、必要に応じてメンテナンスを行う。樹齢数百年のケヤキを長期間自然乾燥させるのは、木材内の水分を抜くことで後々の音質変化を抑えるためだ。木目の密度や年輪の幅から音の響きを計算し、使用用途により胴の厚みを決定する。

江戸時代初期から続く鹿児島県の〈薩摩錫器〉は、日本有数の茶どころである鹿児島の茶文化とともに発展した伝統工芸品だ。錫という素材は熱伝導に優れているため、飲み物をまろやかにする特徴がある。特に緑茶では苦味が減り、甘みや旨みが際立つ効果を発揮する。

職人はこの特性を長年の経験で把握し、茶の保存容器や茶器に活用してきた。近年は海外での日本酒ブーム・抹茶ブームの影響もあり、国際的な評価も高まっている。

能登半島で代々受け継がれる〈ふくべ鍛冶〉は、漁師や農家の暮らしを支えてきた“野鍛冶”の技を今に伝える工房だ。代表作〈TAFU マキリ〉は、日本刀由来の「安来鋼青紙2号」、地金には水に強いステンレス(SUS410)を採用し、本鍛造で仕上げる。

現代の金属工学から見ても優れた特性を持つこれらの素材を、当時の鍛冶職人は経験的に選択していた。一本一本手作業で製作されるマキリセットは、切れ味としなやかさを兼ね備え、日常使いから自然の中まで幅広く対応する。使い込むほどに味わいが増し、持ち主とともに育つ特徴がある。

これら8工房に共通するのは、個体差や経年変化を価値として捉える姿勢だ。大量生産品の均質性とは対極にある考え方で、使い込むほどに持ち主との関係が深まる道具を作っている。

伝統技術を日常に取り入れやすくしている価格帯も魅力的な《TOKUJO BEAMS JAPAN》のアイテムを通じて、現代における手仕事の意味を実感できるだろう。

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