「高校の頃からバンドに憧れていましたが、当時は友達がいなくて結成できず……バンド名を考えてはメモしていたんです。大学生時代に、そのノートを見直すと“家主”と書いてありまして。当時、何を考えていたのかは、まったく覚えていませんが、いいなと思ってつけました」(田中ヤコブ)
新作『石のような自由』に込めた気持ち
家主の曲の歌詞は、バンド名同様、特に意味を持たないようにも感じられる。しかし、歌いたいことが皆無なのではなく「世の中で、誰も見向きもしないものに興味がある」と、田中ヤコブは言う。どうでもいい事柄を徹底的に突き詰め、熟考し、物語る。ポップなメロディと痛快なギターに乗せれば、どこか共感できる歌として成立するのだから面白い。
「アルバムタイトルの『石のような自由』は、同名の楽曲から取りました。ここ数年、石を見たり、考えたりする時間が多い。河原などへ行くと、無限に石が転がっていますが、それぞれには名前もなく、本当にどうでもいい存在。しかし、その中から適当に一つ拾ってみると、それぞれに個性があり、急に具体性を帯びてくる。
ポーンと投げてしまえば、周りの無数の石と同化し、もうわからなくなる。その感じが不思議なんですよね。僕自身はミュージシャンという職業意識がなく、音楽はあくまでも趣味なんです。だから、いまだに転職活動中の延長線上にいる。自由でどこへでも開かれた状況なんだけど、別に何もしたくないという。『石のような自由』という曲は、石と自分との対比という気持ちがありますね」
個性的な創作の発想、兼業音楽家としての姿勢など。家主には“主流に取って代わる”という意味でのオルタナティブさがある。
「バンドの規模が大きくなることについて、意識的に考えないようにしています。関わってくる人も増えると、配慮不足などを考えてしまい、頭がパンクしそうになる。本来はあがり症ということもあるので、ライブに臨む気持ちとしては、楽器を持って会場へ行き、ステージの幕が開いたら“あ、こんなに人がいたんだ⁉”くらいの気持ちを保とうと思っていて。
最近になって、ようやくお客さんがたくさんいてくれた方が、あがらないということに気づいたんです。5人くらいの客席だと、一票の格差が大きい(笑)。満員に近い方が、どこからか自然に声が上がったりして。一体感が出ると実感しています」