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強い意志を持って、意味のないことを歌う。注目のオルタナティブバンド“家主”

緻密かつ豪快なギターサウンドと日常を徒然(つれずれ)なるままに言葉にした歌詞。90sオルタナティブロックを彷彿とさせる音楽性で話題を集めたオルタナティブバンドの家主。BRUTUS初登場の彼らに、気になるバンド名の由来から聞いた。

photo: Kazuharu Igarashi / text: Katsumi Watanabe

「高校の頃からバンドに憧れていましたが、当時は友達がいなくて結成できず……バンド名を考えてはメモしていたんです。大学生時代に、そのノートを見直すと“家主”と書いてありまして。当時、何を考えていたのかは、まったく覚えていませんが、いいなと思ってつけました」(田中ヤコブ)

バンド 家主
写真左から、谷江俊岳(Vo、G)、田中ヤコブ(Vo、G)、岡本成央(Dr、Cho)、田中悠平(Vo、B)。

新作『石のような自由』に込めた気持ち

家主の曲の歌詞は、バンド名同様、特に意味を持たないようにも感じられる。しかし、歌いたいことが皆無なのではなく「世の中で、誰も見向きもしないものに興味がある」と、田中ヤコブは言う。どうでもいい事柄を徹底的に突き詰め、熟考し、物語る。ポップなメロディと痛快なギターに乗せれば、どこか共感できる歌として成立するのだから面白い。

「アルバムタイトルの『石のような自由』は、同名の楽曲から取りました。ここ数年、石を見たり、考えたりする時間が多い。河原などへ行くと、無限に石が転がっていますが、それぞれには名前もなく、本当にどうでもいい存在。しかし、その中から適当に一つ拾ってみると、それぞれに個性があり、急に具体性を帯びてくる。

ポーンと投げてしまえば、周りの無数の石と同化し、もうわからなくなる。その感じが不思議なんですよね。僕自身はミュージシャンという職業意識がなく、音楽はあくまでも趣味なんです。だから、いまだに転職活動中の延長線上にいる。自由でどこへでも開かれた状況なんだけど、別に何もしたくないという。『石のような自由』という曲は、石と自分との対比という気持ちがありますね」

個性的な創作の発想、兼業音楽家としての姿勢など。家主には“主流に取って代わる”という意味でのオルタナティブさがある。

「バンドの規模が大きくなることについて、意識的に考えないようにしています。関わってくる人も増えると、配慮不足などを考えてしまい、頭がパンクしそうになる。本来はあがり症ということもあるので、ライブに臨む気持ちとしては、楽器を持って会場へ行き、ステージの幕が開いたら“あ、こんなに人がいたんだ⁉”くらいの気持ちを保とうと思っていて。

最近になって、ようやくお客さんがたくさんいてくれた方が、あがらないということに気づいたんです。5人くらいの客席だと、一票の格差が大きい(笑)。満員に近い方が、どこからか自然に声が上がったりして。一体感が出ると実感しています」

バンド 家主
撮影は「あまり縁がない」(ヤコブ)という下北沢の路上にて。
『石のような自由』
2023年12月に発表した3枚目のアルバム。先行曲「SHOZEN」を含む全11曲。田中ヤコブ、谷江俊岳、田中悠平の3名が作曲し、ボーカルを取るという形式で制作。2月23日、コザRemy's(沖縄)からツアーを開始。4月29日にはリキッドルーム(東京)公演も。