整ったグラフィックデザインは、人を変え、社会を変える
「表現するものは何であれ、作業に入る前は必ず一杯の日本茶を飲んでから。これがルーティンになっています。茶道とか、そういう類いではなく、お気に入りのマグカップにティーバッグを入れてお湯を注ぐだけ。日本茶の名産地である鹿児島が地元ということもあって、体の半分以上はお茶でできているって言っても過言でないくらい小さい頃からよく飲んでいて、もはや心を落ち着けて整えるものとしてDNAに刻み込まれているんだと思います」
同時に、この一杯が自分の殻に籠(こ)もり、創作活動に集中するスイッチにもなるのだという。
「すごく時間をかけてアイデアを練るというよりは、短距離走のように一直線に突っ走るタイプです。めちゃくちゃ集中して、頭の中に描いたイメージをまず形にする。それが完成したら、別案もひねり出す。もちろん、どちらも満点以上を取る気持ちで。そうやって、最低でも2案並べて、どちらがかっこいいか、また新しいかを自分なりにジャッジして世に出すというのがいつもの流れです。仮に、当初の案を超えるものが生み出せたら、それはもともとの想定よりも上のレベルに立っていることになる。そんな思いから、長年この手法をとってきました」
視覚表現なら、言語を超え思いを伝えられる
「僕の創作の軸にあるグラフィックデザインは、視覚を通して情報を一瞬で相手に伝える手段だと捉えています。そして、最小限の要素で最大限のインパクトを生むもの。それを満たすよう整えていくのが、僕のグラフィックデザインの仕事です。新しいけど伝わりにくいものや、かっこいいけど主張が弱々しいものはもちろんボツ。ただ中にはいつか花が咲く発想が埋もれているかもしれないので、創作の種としてストックしています」
そういった過去の産物から生まれたのが、2023年に国立競技場・大型車駐車場で開催され、注目を集めたアートプロジェクト「SUN」だ。
「SUNの原型となる“銀色の太陽”のモチーフは、2015年くらいに生まれました。20年のパンデミックで仕事の多くがストップした時に、ふと今日という日は一日一日を積み重ねた先にあったんだと真面目に思っちゃって。それで作り続けることをやめちゃいけないと決意して、1日1作品を生もうと思ったんです」
そんな時に、頭に浮かんだのが“太陽”だったのだそう。
「太陽って、地球とか生命を象徴するものだと思うんです。そこで、太陽を模した丸い銀枠に配色してその日に感じた情景を表現していき、1年かけて365作品になりました。せっかくだから、この展示を、それぞれが友人と会える機会にしてもらおうと思い、日常が戻ってきた2023年4月に野外で発表することに。何か一つの時代を表現することはアートの意義だと思うんで、マスクのことを気にせずに累計数千人で集まる機会を作れたのは良かったし、この出来事自体が作品の一部になりました」
このプロジェクトには、多くの人が地球に興味を持つきっかけにしてほしいという狙いもあるそう。
「言語の壁を取っ払えるのが視覚表現の強みだと思うんです。だから、SUNというプロジェクトは、できるだけ多くの国の子供たちの記憶に残るものにしたい。太陽がかっこいいとか、美しいとか、幼い子の記憶に残せたら、僕のお茶のように、地球の大切さをDNAに刻み込めるかもしれない。そうなれば、いろいろなことが変わるんじゃないかって。笑われるかもしれませんが、整ったグラフィックデザインの先に、そんな未来があるんじゃないかって大真面目に考えています」
MY STYLE 心と体のスイッチを入れる合図は、一杯の日本茶
「得られる効果、効能といった理屈は全く関係なく、もはや作業に向かう体と気持ちを整える儀式に近いんです」という独自のルーティンが、日本茶を飲むこと。お気に入りは、地元の鹿児島産の玉露茶。ゆっくりと一杯飲み終える間に、書類やメールに目を通すといった業務をすべて終わらせて、創作に没頭できる環境も同時に整えるのだという。
「ひと区切りついた時や、ひと踏ん張りしたい時には、さらにもう一杯注ぐ」と、日本茶が創作のお供になっている。
WHAT’S AUGER?→《ツメキリ M Standard》
「スケッチしたり、模型などを制作したり、手を使うことが多い仕事なので、衛生面と安全面の両軸で指や爪のケアを心がけています」というYOSHIROTTENさんにぴったりなのが、誰でも楽々と使える〈AUGER(オーガー)〉の爪切り。力学を応用した設計で、ステンレス刃を用いた《ツメキリ M Standard》はシャープで軽い切れ味が特徴。