自らの完璧を自ら否定する、終わりなき楽曲制作
「湧き上がるアイデアや気持ちを最もスムーズに表現できる方法は何かと考えた時、それは私にとって音楽でした。幼い頃から、会話や意志表示はどちらかというと苦手で、歌うことや(楽器を)弾くことは好きでした。音楽と向き合っている時がいちばん自分らしく素直でいられる。
音楽仲間とご飯に行って談笑している時よりも、ステージで一緒に音楽を奏でている時の方が、お互いの気持ちをスムーズに交わせている気がして、生き生きとした生命感を体感できるんです。だから、飽き性な私も、音楽だけはこんなに長く続けられているんだろうな」
ピアノを習い始めた3歳の頃から今に至るまで、常に新たな刺激を求めてきた。それを象徴するのが、ライブパフォーマンスだ。
「収録した時点では完璧だと思いリリースした曲も、時間が経つと“それ以上”があるんじゃないかと考えてしまうんです。そのたびに、一度完成させた原曲をアレンジし直し、新しい音色をステージ上で発表する。今では、これがライブの恒例になっています」
奏でる音楽は、エレクトロ、アンビエント、オルタナティブなど、ジャンルに縛られない独自の世界観が広がっている。
「振り返ると、どのアレンジもその瞬間その瞬間の正解だと言えるし、またどれも間違いだったかもと感じることも。そういった意味では、“音楽を整える”ことに終わりはありません。ずっと悩みながら探求する途方もない作業だけど、それだからこそいつも新鮮さを感じ続けられるのだと思います」
歌声も生活音も、人の心を動かすエッセンス
「最近の曲作りでは、歌詞とそれを表現する歌声の捉え方が少し変わりました。言葉の印象が強すぎると、一つの解釈にとどまってしまう気がして。あくまでも、歌詞は楽曲のストーリーを伝える道しるべ的な役割でボヤッとさせておきたいんです。譬えるなら、映画の世界みたいな感じ。主人公がスクリーンの中心にいても、その横に映る空や鳥といったサブ的な情報も観客自らキャッチして、そこからも解釈を広げていきます。そんなふうに楽曲も、歌詞にある言葉に引っ張られすぎず、聴き手のイメージが膨らむエッセンスをちりばめた多層的な音像を創ることを大切にしています」
では、いかに多層的な音像にしていくか。秘密は「トラックの“汚し”」と話す、意外なスパイスが曲にはミックスされている。
「誰にとっても身近な生活音を混ぜることで、それが良い意味での違和感となり、音楽の奥行きを出せるのではないかと思っています。また、よく耳にしている日常に溢れる音はどこか安心感を与えます。当然、単体では心地よくない雑音もあって、それをいい塩梅で調和させるのがとても難しい。ただ、うまく整えることができれば、先ほどの映画の話のように、聴き込めば聴き込むほど発見のある音楽になると思うんです」
美しい歌声と生活音をミックスさせる自由な発想は、独学で作曲を始めたermhoiさんならでは。
「何事も基礎が大事と言いますが、知ることで見えにくくなる世界もあると思うんです。特に正解ばかり求めてしまうと、原則や法則に縛られすぎて自由がなくなっちゃう。そんな怖さが音楽にはあります。だから、完全に整ったきれいな音楽が必ずしも人を感動させるとは限らない……。
どこか、違和感や驚きがあるザラザラした質感の方が人の心に染みたりもする。そんな感動を、私はプロになる前からリスナーとしてありとあらゆる音楽で経験してきました。今となっては、その積み重ねが私のベースとなり、曲作りにも生きているんだろうな」
MY STYLE 生活に溢れる“ノイズ”をメロディに忍ばせる
「完全に整ったきれいな音楽が、必ずしも人を感動させるとは限りません。それよりも、普段から耳にする生活音を織り交ぜた多層的な楽曲の方が、人にリアリティを与えて、心に届くと信じています。
だから、日常の物音や車の走行音、スピーカーを引っ掻くジリジリという音など身の回りに溢れる生活音を収録して、トラックに加える“汚し”を曲に忍ばせています。どのようにミックスするのがいいかは今も研究中です。これから先も終わりはありません……」
WHAT’S AUGER?→〈オーガー®〉のネイルファイル
医療用刃物から家庭用包丁まで手がける〈貝印〉から誕生した、男性用のグルーミングツールブランド〈オーガー®〉のネイルファイル。爪の形を整える粗い面と、滑らかに仕上げる細かい面があり、ermhoiさんのようにマニキュアで彩る指のケアにもおすすめ。爪をケアしやすい角度がついた形状で、やすり面は錆びにくいステンレス製。1,100円(オーガー/貝印)