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今、香水に惹かれる理由。いっそう自由になるボトルの表現

香りの作り、ボトルの表現がいっそう自由になり、ますます選択肢が増えている「香水」にフォーカス。世界はもちろん、日本の作り手も続々。京都で店を構え、新たな香り文化を発信する米倉新平さんに“今”を象徴するボトルを糸口に話を聞いた。

photo: Satoshi Yamaguchi, Kunihiro Fukumori / text: Yu-ka Matsumoto

聞いた人:米倉新平さん(〈ル シヤージュ〉店主)

⾒よ、この⾹⽔たちを。⾹り、デザイン、バックグラウンドもさまざまな“今”を表す品々だ。ここは京都のフレグランス専⾨店〈ル シヤージュ〉。

〈J.F. Schwarzlose Berlin〉の1A‒33、〈Olibanum.〉のSacra、。〈HISTOIRES de PARFUMS〉のThis is not a blue bottle、〈KITOWA〉のEau de Parfum HIBA、〈sous le manteau〉 のessence du sérail n°4 〈ELECTIMUSS〉のCE LESTIAL、〈Mark Buxton Perfumes〉 Wood and Absinth
01:老舗ブランドが満を持してリブート。
復活を果たした1856年創業、〈J.F. Schwarzlose Berlin〉の1A-33 50ml 26,400円。

02:肌、地球にも優しいサステイナブル。
「オリバナムと1つの原料」にこだわる〈Olibanum.〉のSacra(Sa) 50ml 16,940円。

03:名は「青い瓶ではない」アートが生む香り。
ルネ・マグリットの油彩画「イメージの裏切り」から想起。〈HISTOIRES de PARFUMS〉のThis is not a blue bottle 1/.4 120ml 26,400円(奥)、同1/.3 60ml 16,500円(⼿前)。

04:香道の精神を受け継ぐ日本代表。
和⽊を伝道する〈KITOWA〉のEau de Parfum HIBA 100ml 24,200円。

05:古代の媚薬レシピを現代の感性で変換。
19世紀の薬学書を発⾒し始動した〈sous le manteau〉のessence du sérail n°4 100ml 28,600円。

06:最高級の素材を惜しみなく使用。
シルクロードを辿り⾼級な⾹油を集めた古代ローマから着想した〈ELECTIMUSS〉のCELESTIAL 100ml 53,900円。

07:熟練デザイナーが液体から紡ぐ物語。
⻑年メゾンで経験を積んだデザイナーが⽴ち上げた〈LIQUIDES IMAGINAIRES〉のBLOODY WOOD 100ml 28,600円。

08:あの名香を生んだ調香師のブランド。
〈COMME des GARÇONS〉初の⾹⽔も⼿がけた調⾹師による〈Mark Buxton Perfumes〉のWood and Absinth 100ml 25,300円。

確かな審美眼で国内外の⾹⽔をセレクト、懇切丁寧にレクチャーを⾏うことから初⼼者、愛好家、作り⼿も列を成す話題店だ。店主の⽶倉新平さんを訪ね、今、⾹⽔に惹かれる理由を聞いた。

「調⾹師(A)が独⽴してブランドを始めたり、別業界のデザイナーが参⼊したり、はたまた廃業した⽼舗が復活したり。今、フレグランス業界でさまざまな動きが起きているのは間違いありません。最⼩限の⾹料だけを使うサステイナブル系もあれば、最⾼級の⾹料をふんだんに使うところもある。モチーフも酒、本、旅、映画、⾳楽、アート……と、どのジャンルにも紐付く⾹りがうちの店だけでもあります。

2024年3⽉にイタリア・ミラノで開催されたニッチフレグランス(B)の展⽰会『エクサンス』に⾏ってきたのですが、2023年の出展ブランド数が298だったのに対して、2024年は360でした。作り⼿が増えているのも間違いありませんね」

ブランドの増加は、「香水を作りやすい仕組みが整ってきたのも後押ししている」という。西欧を皮切りに、香料会社が柔軟にインディペンデントな作り手と取引を始めた流れもある。では、香りそのものも変化しているのか。そもそもファッションのように、香水にも時々でトレンドがあるのだろうか?

「感覚的な部分もありますが、全然違うブランドが“同じように作っているな”ということは少なからずあります。大きい流れで言うとここ十数年くらい、中東マーケットに向けたアガーウッド(沈香(じんこう))やフランキンセンス(乳香)をたっぷり使った濃い香りが顕著でした。ですが最近はそれも落ち着いて、ファミリー(C)で言うところの、チェリー、ベリー系のフルーティノートが増えたように思います」

ただし香水を選ぶうえで、流行りやSNSの情報に左右されることには“待った”をかける米倉さん。「結局、一番嗅ぐのは自分自身ですから、好みや直感を大切に。〈シャネル〉の№5のような超定番と呼ばれる香りも今、何周も回ってフレッシュに感じることもありますしね」

〈LE SILLAGE〉店内のバーカウンター
〈LE SILLAGE〉の店内。バーカウンターからカクテルを提供するように、一人一人に国内外約30のブランドから香水を提案する。時には3時間かけて接客することも。

躍進の日本ブランドと、24年秋冬の“付け方”

フランスを中心に、西欧で育まれてきた香水文化。だがここ日本でも疑問や危機感を覚えて学び始めた作り手や、香りやコスメの知見を持った企業が強みを生かしてフレグランスに参入するケースも目立っている。

「筆頭は〈日本香堂〉をバックグラウンドに持って始動した〈キトワ〉。“日本の和木を世界に伝える”というコンセプトが一貫していて、アコード(D)の完成度も高く、デザインもいい。この国から最高級のオードパルファム(E)を作ろうという気概を感じます。メイド・イン・ジャパンはそれだけでブランドになりますし、侘(わ)び寂(さ)びなどの日本のモチーフは人気ですから、可能性は秘めているはずです」

馴染みの深い香りは当然親しみやすいもの。「西欧のモノは強くて苦手」という人にも日本製は打ってつけだが、そもそも香水を「強い」と感じている場合、付け方を間違えていることが多いという米倉さん。

「いろんな言説がありますが、うちでは首、手首、腕の周りに付けるのはやめてくださいと言っています。顔から近すぎる、動きすぎる部分だともちろん香りを強く感じる。イヤホンで音楽を大音量で聴いて、“音がうるさい”って言っているようなものですよ。

トップノート(F)から綿密に計算された持続力のある香水は、必然的に濃くなります。肩、腰、もも、膝、足首の内側に付けてください。僕でもだいたい下半身だけ。動いた時に服の内側からふわっと香り立つくらい、これが2024年秋冬現在、日本における香水のベストな付け方かと。(頭上に)シュッと噴射してくぐるとかも、やめてくださいね(笑)」

心地のよい服を着るくらいの感覚で、自分が心地よいように香りを身にまとう。用途、要領を心得たら、いざ香り選びへ。