世界で活躍するスタンドアップコメディアンのアツコ・オカツカがインタビューで語っていたように、映像プラットフォームが定着し、国境を超えて支持が広がっているスタンドアップコメディ。「所詮“アメリカ人”の笑いでしょ?」なんてことはなく、プレーヤーも多様化し、笑いのバリエーションも増えている。
近年はアジア系の台頭が著しいと、スタンドアップ・フリークの小説家・須藤古都離は語る。
「かつてアジア系は笑われる側でした。しかしここ数年、アジアにルーツを持つコメディアンたちが、多様な生き方や価値観、文化を自ら笑いに変え、支持を得ている。アジア系の存在がエンタメに昇華されたんです。同じアジア人として共感できる部分も多いはず。ぜひ触れてほしいです」
以下、須藤のセレクトでアジア系コメディアンを紹介。各種サービスでアクセスしてみてほしい。
『ロニー・チェンのココだけの話』
俺をキャンセルしてみやがれ!
マレーシアに生まれ、シンガポールとオーストラリアで暮らしたロニーは、人気のフェイクニュース番組『ザ・デイリー・ショー』特派員として活躍し、俳優としても『M3GAN/ミーガン』や『シャン・チー/テン・リングスの伝説』などに出演。
「話の組み立てが巧みで、下品なネタが少なくてとっつきやすい。アメリカの政治・文化を俯瞰して笑わせるので、コメディが苦手な人も楽しめます。キャンセルカルチャーへの言及も見事でした」
『アリ・ウォンの魔性の女になりたくて』
妊娠中のスタンドアップで大ブレイク!
中国系アメリカ人の父とベトナム人の母を持つアリは、2016年にNetflixで公開されたスペシャル『アリ・ウォンのオメデタ人生?!』でブレイク。
「妊娠中のお腹をタイトなワンピースに包んだ姿と、若さへの嫉妬や下ネタをぶちまけるさまが痛快で、アイコニックな存在になりました。プロデューサー・脚本・主演を務めた映画『いつかはマイ・ベイビー』には、彼女のファンであるキアヌ・リーヴスが本人役で出演しています」
『ラッセル・ピーターズ:国外追放ワールドツアー』
この男を知らないなんて、大ケガするぞ
インド系コメディアンといえば『マスター・オブ・ゼロ』のアジズ・アンサリを思い浮かべる読者も多いだろうが、ピーターズは最も成功したアジア系コメディアンの一人だ。
「インド人の父親による厳しいしつけや、ユダヤ人以上にケチなのはインド人だ、といったネタが有名ですね。児童相談所に電話したところで、担当者が家に来るまでの間に“誰かが大ケガするぞ”(Somebody Gonna Get a Hurt real bad.)というフレーズは強烈です」
『ジミー・O・ヤン:人生おいくら?』
中国人あるあるで爆笑をかっさらう!
香港出身のヤンはHBOのコメディシリーズ『シリコンバレー』で英語がしゃべれない腕利きエンジニアを演じてその名を知られるようになった。
「私は妻が中国人なのもあって、ヤンのコメディがよくわかるんです。中国人はどの国に移り住んでも自分たちのスタイルを崩さず、公園では太極拳をしてるし、どこでも値切りまくるみたいなあるあるネタが面白い。ポップカルチャーへの言及も多いので、BRUTUS読者にもハマるはずです」
『Margaret Cho: PsyCHO』
アジア系女性コメディアンの先駆者
アジア系コメディアンで初めてHBOスペシャルに出演した伝説的な女性で、15歳のときのアツコ・オカツカはDVDを観て彼女に憧れた。
「1994年にシットコム『オール・アメリカン・ガール』で主演を務めましたが、番組は打ち切りに。その後、薬物やアルコール依存症になりながらも、カムバックしました。アジア系であり、バイセクシュアルでもあるチョーの、あけすけな下ネタや、有名人との交友関係ネタは鉄板ですね」