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アジアと北欧のうごめく恐怖映画。『女神の継承』『ボーダー 二つの世界』etc.

近年盛り上がりを見せるアジアと北欧地域の恐怖映画シーン。地域性と物語が濃密に絡み合う、広義の“土俗ホラー”的作品を辿りながら、それぞれの恐怖の特徴と傾向を考察。

text: SYO, Vinyl Tackey

アジア 湿度のある不穏さと、迫りくる凶暴性

『新感染 ファイナル・エクスプレス』『哭声/コクソン』『呪詛』等、一大ジャンルへと成長したアジアホラー。

ハリウッドのアトラクション系ホラーに対し、陰湿でおどろおどろしく、静の鬼気とでもいうべき異常性がじわじわと忍び寄るウェットなトーンが特徴で、地域独自の因習や伝承、土地神に代表される信仰(あるいは呪い)に紐づいた排他/閉鎖的な“土着感”が、恐怖を演出する装置やモチーフとして使われることが多い。同じ祈祷師を題材にニュアンスが異なる物語を描いた『哭声』『女神の継承』がその好例だ。

『哭声/コクソン』
監督:ナ・ホンジン/2016年/片田舎で村人が家族を惨殺する事件が連続。捜査を始めた警察官の周囲で、異常事態が頻発する。謎めいたよそ者に扮した國村隼の怪演が見もの。
『女神の継承』
監督:バンジョン・ピサンタナクーン/原案・プロデュース:ナ・ホンジン/2021年/タイの山村を舞台に、祈祷師と悪霊の対決を描く。ある日を境に奇行を繰り返す女性。その背景には土地に根づいた、ある呪いが関与していた……。モキュメンタリー形式がリアルな恐怖を掻(か)き立てる。

韓国では『新感染』『哭声』が大当たりし、ゾンビブームが到来。ゾンビ×歴史劇『キングダム』や学園モノ『今、私たちの学校は…』に続き、バラエティ番組『ゾンビバース』まで生まれた。そして、ヒットホラー量産国として頭角を現しているのが台湾。『紅い服の少女』シリーズ、『返校 言葉が消えた日』『哭悲/THE SADNESS』『呪詛』などコンスタントに話題作を送り出す。

『紅い服の少女 第一章 神隠し』
監督:チェン・ウェイハオ/2015年/台湾ホラーブームの火つけ役とされる映画の第一章。1990年代に起きた怪奇事件をモチーフに、謎に包まれた存在“紅い服の少女”に迫る。
『返校 言葉が消えた日』
監督:ジョン・スー/2019年/人気ゲームが原作。独裁政権下の台湾で学校に閉じ込められた高校生を描く。台湾のアカデミー賞にあたる金馬奨で5部門受賞。U−NEXTで配信中。
『哭悲/THE SADNESS』
監督:ロブ・ジャバズ/2021年/人間を凶暴化させるウイルスが蔓延。地獄絵図と化した世界で、再会を目指す男女の運命は。R18+指定で展開する過激なゴア描写の数々は圧巻。

インドネシアでも2022年に『呪餐 悪魔の奴隷』が大ヒットし、近年はアメリカでも韓国やインド系アメリカ人を主人公にした『オンマ/呪縛』『It Lives Inside(原題)』といった映画が登場。アジアホラーブームはいまだ拡大中だ。

北欧 美しい世界に巣食う、冷ややかなおぞましさ

北欧といえば豊かな自然、モダンなデザイン、福祉も手厚く幸福度の高い国々という印象がある。しかし寒冷な気候から精神を病む者も多く、経済格差や移民問題も存在。一見美しい世界の裏でうごめく闇が発露したものが「北欧ホラー」と言えるだろう。

『イノセンツ』は子供たちが超能力で残忍な行為に及ぶ話だが、背景には移民や崩壊した家庭の子供が抱える不安がある。『ハッチング −孵化−』は家族観に悩む少女の心を、異形の存在が映し出した。

『イノセンツ』
監督:エスキル・フォクト/2021年/閑静な集合住宅で超能力に目覚めた子供たち。アカデミー賞ノミネート作品『わたしは最悪。』の共同脚本を手がけた監督が、大友克洋の漫画『童夢』からの影響を公言。団地の冷ややかな雰囲気と児戯的な暴力が印象的。
『ハッチング ―孵化―』
監督:ハンナ・ベルイホルム/2021年/少女の不安が不気味な生き物として具現化するクリーチャーホラー。奇怪な生き物よりも人間の方が明らかに不気味なザ・北欧ホラー的作品。

また土着の精霊や妖精が身近な存在として描かれる特徴も。『ボーダー 二つの世界』は、独特の容姿と能力を持つ主人公が出自に関する衝撃の事実を知る、現代版おとぎ話。『LAMB/ラム』は半人半羊の子供を中心に巻き起こる不穏なファンタジーである。さらに、冷酷な残虐性も重要点として挙げられる。

『ボーダー 二つの世界』
監督:アリ・アッバシ/2018年/あらゆる境界線を越えるというテーマを幻想的かつ生々しく描写。5,280円(BD)。発売元:キノフィルムズ/木下グループ。販売元:ハピネット。
『LAMB/ラム』
監督:ヴァルディミール・ヨハンソン/2021年/夫婦が授かったのは、羊の顔を持つ子供だった。日常と超自然的存在が地続きに。不穏な中に神話のような壮大な雰囲気さえ漂う。

『ぼくのエリ 200歳の少女』では、青春譚と残酷な連続猟奇殺人が交差。厳密には北欧ホラーではないが、ホラー界の新鋭アリ・アスターの『ミッドサマー』も、北欧のイメージを逆手に取った残虐なカルトホラーである。なお彼は、2023年秋に日本でも公開した注目作『シック・オブ・マイセルフ』の監督の次作をプロデュースすることも報じられている。闇深い北欧ホラー、だがその未来は明るい。

『ぼくのエリ 200歳の少女』
監督:トーマス・アルフレッドソン/2008年/青春映画と猟奇的な連続殺人が冷たい雪のように折り重なる叙情的な作品。監督と撮影監督、ホイテ・ヴァン・ホイテマの出世作。