アジア 湿度のある不穏さと、迫りくる凶暴性
『新感染 ファイナル・エクスプレス』『哭声/コクソン』『呪詛』等、一大ジャンルへと成長したアジアホラー。
ハリウッドのアトラクション系ホラーに対し、陰湿でおどろおどろしく、静の鬼気とでもいうべき異常性がじわじわと忍び寄るウェットなトーンが特徴で、地域独自の因習や伝承、土地神に代表される信仰(あるいは呪い)に紐づいた排他/閉鎖的な“土着感”が、恐怖を演出する装置やモチーフとして使われることが多い。同じ祈祷師を題材にニュアンスが異なる物語を描いた『哭声』『女神の継承』がその好例だ。
韓国では『新感染』『哭声』が大当たりし、ゾンビブームが到来。ゾンビ×歴史劇『キングダム』や学園モノ『今、私たちの学校は…』に続き、バラエティ番組『ゾンビバース』まで生まれた。そして、ヒットホラー量産国として頭角を現しているのが台湾。『紅い服の少女』シリーズ、『返校 言葉が消えた日』『哭悲/THE SADNESS』『呪詛』などコンスタントに話題作を送り出す。
インドネシアでも2022年に『呪餐 悪魔の奴隷』が大ヒットし、近年はアメリカでも韓国やインド系アメリカ人を主人公にした『オンマ/呪縛』『It Lives Inside(原題)』といった映画が登場。アジアホラーブームはいまだ拡大中だ。
北欧 美しい世界に巣食う、冷ややかなおぞましさ
北欧といえば豊かな自然、モダンなデザイン、福祉も手厚く幸福度の高い国々という印象がある。しかし寒冷な気候から精神を病む者も多く、経済格差や移民問題も存在。一見美しい世界の裏でうごめく闇が発露したものが「北欧ホラー」と言えるだろう。
『イノセンツ』は子供たちが超能力で残忍な行為に及ぶ話だが、背景には移民や崩壊した家庭の子供が抱える不安がある。『ハッチング −孵化−』は家族観に悩む少女の心を、異形の存在が映し出した。
また土着の精霊や妖精が身近な存在として描かれる特徴も。『ボーダー 二つの世界』は、独特の容姿と能力を持つ主人公が出自に関する衝撃の事実を知る、現代版おとぎ話。『LAMB/ラム』は半人半羊の子供を中心に巻き起こる不穏なファンタジーである。さらに、冷酷な残虐性も重要点として挙げられる。
『ぼくのエリ 200歳の少女』では、青春譚と残酷な連続猟奇殺人が交差。厳密には北欧ホラーではないが、ホラー界の新鋭アリ・アスターの『ミッドサマー』も、北欧のイメージを逆手に取った残虐なカルトホラーである。なお彼は、2023年秋に日本でも公開した注目作『シック・オブ・マイセルフ』の監督の次作をプロデュースすることも報じられている。闇深い北欧ホラー、だがその未来は明るい。