山麓園太郎
タイではもともとK−POPアイドルの影響が強かったのですが、2017年にAKB48グループのBNK48が大ブレイクしました。多少ダンスや歌がつたなくても、ファンが応援して育てていく……という日本的なグループアイドルがブームになって、今では握手会やチェキ会の文化も根づいています。
島村一平
モンゴルでは大前提として歌がうまくないと歌手になれないので、日本のようなアイドル文化が根づかないんですよね。さらに、女性の社会進出が進んでいて、医師や弁護士の7割が女性なんです。そうした土壌もあって、歌詞も男性に媚びない強い女性像を描いたものが多い。恋愛禁止のルールもないし、今回紹介するThe Wasabiesも女性から見てもカッコいい女性像を体現しています。
山麓
タイのアイドルは、日本語で「せーの!」と言ってからグループ名を紹介することもあります。これはリスペクトゆえの「共通言語を持ちたい」という欲求の表れだと思うんですよね。日本独特の「萌え」の文化も受け入れられています。
島村
なるほど。「萌え」の文化は、モンゴルにはないですね。「萌え」は、男女の距離感がある社会じゃないと生まれないと思うんです。モンゴルは男女問わず普段から人間同士の距離感が近い。日本やタイは距離があるからこそ近づきたい、という欲求が生まれるのかもしれません。
山麓
だから、アイドルを神聖視する一方で、アイドルに会うために握手会に行くというこんがらがった文化も生まれるんでしょうね。
海外文化が混ざり合うアジア音楽の歴史
山麓
今回紹介する4EVEをはじめ、タイのガールズグループでは再びK−POPのセクシーさやキレのあるダンスを取り入れる流れもあるんです。
一方でここ1、2年、タイは自国のポップスを「T−POP」と称するようになって、メイクにタイらしさが強く表れていたり、タイ語特有の声調を生かせるラップパートを導入したりと、自国の独自性も打ち出しています。ただタイの外国音楽の取り入れ方は「いかに欧米(あるいは日本や韓国)に近づけていくか」というのがベースにある気がしますね。
島村
その話は面白いですね。モンゴルもさまざまな外国音楽を取り入れるんですが、自国の文化と混ぜるときには「じゃあ、自分たちの文化ってなんなんだ?」という葛藤がある。モンゴルは個人主義的な文化で、遊牧民も個人経営者ですから。
山麓
タイの人たちは「自分たちが心地よく過ごせる」ということをすごく大事にしているので、アイドルでも、外国の文化を取り入れることにもあまり屈託がない気がします。
島村
音楽的な面で言うと、モンゴルは1992年まで社会主義国だったので旧ソ連一辺倒だったのですが、徐々にヨーロッパの流行を受け入れ始めて、アメリカの音楽が入ってきて……という歴史の中でずっと人気があるのがHIP−HOPなんです。
山麓
それはモンゴルの政治や社会情勢も関係しているんですか?
島村
必ずしも政治的なメッセージを含むポリティカルラップを歌っているわけではないんですけど、「韻」が文化として定着してるんですよ。モンゴルは遊牧民の時代から韻を踏みながらdisり合ったりしていたので。
The Wasabiesもリーダーのブイカはラッパーなんです。やはりHIP−HOPカルチャーが強いし、音楽シーンでも断然人気がありますね。
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