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美しく“脱ぐ”ための服を作る。ストリップ劇場〈浅草ロック座〉の衣装デザイナーという仕事

「美しく脱ぐ」ことを真剣に考えている人がいる。年間180着もの衣装を作る、ストリップ劇場〈浅草ロック座〉の衣装デザイナー・のやさんだ。未知なるストリップの衣装の世界を案内してもらった。

photo: Satoko Imazu / text: Yoko Hasada / edit: Sho Kasahara

衣服とは、「纏う」ものだ。わたしたちの体を隠し、守り、時に華やかに、時に自分自身を表現してくれるもの。しかし、この世の中には「脱ぐ」ために「纏う」衣服があるという。それがストリップの衣装である。1947年(昭和22)に創立した、現存する日本最古のストリップ劇場には、専属の衣装デザイナーがいるという噂を聞きつけ、〈浅草ロック座〉を訪れた。

年間約180着を制作する、無我夢中な日々

〈浅草ロック座〉専属の衣装デザイナーである、のやさん。実は、大学時代に犯罪心理学を学んだ経験から、特殊学級で教員として働いていたという。7年前のある日、友人から「おもしろそうだから一緒に行かない?」と誘われて、軽い気持ちで劇場に足を運んだところ、一瞬で虜になってしまったそう。それから劇場に通うようになり、自然と「この世界観の中で働きたい」と思うようになった。

「洋服は趣味で作る程度で、仕事としては全くの未経験。特殊学級の先生も長年の夢で誇れる仕事でしたが、ロック座で働きたい気持ちが抑えられずにいたんです。劇場スタッフの方に直談判したところ、運良く募集があって入ることができました」

初めは、独学で衣装作りを学び、時には踊り子にもアドバイスをもらいながらミシンを動かした。しかし、もっと完成度の高い衣装を作りたいと歯痒く思い悩んでいたことを知った社長から「学校に行きたいなら学費を出そう」とサポートしてもらえることに。

「2019年から文化服装学院に通わせてもらいました。朝から17時まで学校、夜はロック座で、深夜に課題や作業をして寝ずに学校へ。ハードでしたが、どうにか卒業できました。学校では人体のつくりからパターン(型紙)の引き方、素材の扱い方まで衣装作りの基礎をしっかり教えてもらい、卒業後は作り方がまったく変わりました」

〈浅草ロック座〉、『ワンダーランド』公演のトランプ兵の衣装
はじめて作った衣装は、『ワンダーランド』公演のトランプ兵。バックダンサーのための衣装だったという。「四角に切って縫うだけだったので、初心者の私でも比較的簡単に作れましたね(笑)。正直、通う前に作ったものは全部作り直したいくらいです」。
2018年の『Earth Beat』公演ごろから衣装部として本格的に参加。サテンやスパンコールの生地で衣装を作るのは初めてで、生地が色落ちして踊り子さんの体がピンクになってしまったという、苦い思い出も。「『こういうときは、内側にフェルトを貼るといいよ』とベテランの踊り子さんに教えてもらい凌ぎました」。

目指すのは、踊り子にとってストレスのない衣装

衣装を脱いでいくことで、その人の魅力が引き立つ。照明も相まって、はだけていく体の美しさは格別だ。ステージにおける主役は踊り子さん自身で、衣装は演出、照明、音楽などパフォーマンスのひとつのツール。裸で出てくるよりもその人自身が魅力的に映らなくてはいけない。

「デザインや見た目も大事ですが、踊り子さんが存分なパフォーマンスを発揮できることが一番。たとえば暗転した舞台の見えづらいところで、踊り子さん自身で着替えてもらうので、ファスナーは丈夫で噛みにくい構造に。後ろにファスナーがある場合は、長い紐をつけてサッと下ろしやすく。大きな胸の踊り子さんは引っかからないように、などと気を使います」

〈浅草ロック座〉では、同じ演目を20日おきにキャストを変更しながら3rd公演まで開催する。そのため、ひとつの衣装を3人のキャストが着回すことになるのだ。体を美しく見せるため、ある踊り子の千秋楽が終わると、翌日の昼までに次の演者の体に合わせて作り直すこともあるという。

「ほかにも大変だったのが、同じ演目を個性がまったく違う踊り子さんが担当したとき。かわいい系の踊り子さんから、クール系の踊り子さんが衣装を引き継ぐことになり、このときは全く違うものを作りました。踊り子さんのテンションが上がる衣装を着てほしいので、できるだけ最善を尽くします」

浅草ロック座 作業部屋
ひとりでも脱ぎやすいように、背中のチャックに長い紐をつけている。ここも装飾に見えるようラインストーンをあしらっている。

ストリップの衣装には、2つの種類がある。1つは「ダンス着」。その名の通り、脱ぐ前のダンスタイムに着る衣装。もう1つの「ベッド着」は、ステージ前方にある丸い盆の上で、体をあらわにする前に纏う衣装だ。〈浅草ロック座〉に衣装部はあるが、ベッド着だけは踊り子自身が用意する習わしだという。

「ベッドの上は、踊り子さん主体で表現する場。その人の内側を見ていく時間、というイメージでそれぞれが世界観をつくり上げているので、ベッド着だけは踊り子さんにお任せしているんです」

今回は、現役の踊り子である白鳥すわんさんにお気に入りの衣装や自分でオーダーしたベッド着の話を聞かせてもらった。

踊り子・白鳥すわん
踊り子・白鳥すわんさん。元バレリーナであるゆえに、しなやかな動きとキレのあるダンスに定評がある。

ベッド着の制作過程はさまざま。すわんさんの場合は、元・踊り子の一条さゆりさんが営む衣装屋さんにお任せすることが多いのだという。

「私はベッドのステージでも激しく踊りたいので、動きやすさ重視で作ってもらっています。ベッド着はひとりで長い時間を踊るので、テンションが上がるものを着たいです。お気に入りは、中国で買い付けられた布で作った、赤いレースのベッド着。ステージの中央に立つと、照明のおかげで肌がきれいに見えるんです。いつもベッド着が出来上がると、どういう見せ方や動きが一番きれいか、スタジオを借りて鏡の前で何度も研究して、自分で振りを考えます」。

のやさんも「一条さんの作る衣装は、裸に映える衣装がよくわかってらっしゃるのでとてもきれいなものを作られる」と絶賛する。

浅草の街も以前のように活気を取り戻し、〈浅草ロック座〉の前には開場前から行列ができている。今もなお、多くの人を魅了する〈浅草ロック座〉、そのパフォーマンスにおける衣装の存在は足繁く通うファンの間でも話題を集め、これまで作られた衣装を見たいという声もあるという。

「いつか衣装展をやってみたいですね。でも、まず第一の目標は、〈浅草ロック座〉ならではの型紙研究を極めること。劇団四季や宝塚歌劇団など、どの衣装さんも“秘伝のスパイス”みたいなものがあるので、事故なく気持ちよく踊れる型紙を完成させたいです。長期的なものだと、全国でストリップ劇場がどんどん閉館しているので、ストリップの歴史がこの先ずっと続いていくように少しでも貢献していきたいと思っています」

〈浅草ロック座〉衣装部・のや、白鳥すわん