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アートを買うなら知っておきたい10のこと〜手続きや管理 編〜

アートを買ってみたいけど、そもそも買い方がわからない!何をどうしたらいいの?と、はじめの一歩を踏み出せずにいる人も多いのでは。そんなあなたのお悩みを一つ一つ解決していきます!「アートを買うなら知っておきたい9のこと〜準備やお金 編〜」も読む。

Illustration: Kanako Shirao / Text: Shiho Nakamura

Q.作家と話してから
買いたいのだけど。

基本的には、ギャラリーに所属する作家から直接買うことはご法度。誰がどんな作品を買ったかをきちんと管理して、継続的に客へ情報を送る役割を担うギャラリーでは、買う意思を示した客にはレセプションへの招待状を送るのが通例。そこで作家を紹介してもらうことは可能性大で、話すチャンスに一歩近づくことができる。顔バレをしたくない作家がいるのも事実だが、逆に、買ってくれる人と話したいという作家も多い。さらに、“コミッションワーク”と呼ばれる注文制作は、受けてくれる作家とそうでない作家がいるので、要相談。

Q.ネットでアートを購入するのはアリ?

もちろんネットは大いに活用できるだろう。だが、最も想定できるのは、届いた実物を見て「こんなはずではなかった!」という事故。アートフェアやギャラリーで実物を見て目を肥やすことや、いくつか購入するなど経験を積んでからが妥当といえそう。そうすれば、ペインティングだったら折れやヤケ、ひびがないかや、サインが刷り込みではないかなど、どこをチェックすべきかというポイントも自ずと見えてくるはずだ。もしネットで購入するなら、アートに限らず、クーリングオフできるかなど注意事項の事前確認は必須です。

Q.日本で取り扱いがない海外の作品は、
どうやって買えばいい?

多くの海外のギャラリーはウェブサイトを持っているので、直接コンタクトを取ることはできる。が、言語の壁もあるし、顔の見えない相手と信頼関係を築くのは長期戦になることを覚悟あれ。それに人気作家のウェイティングリストは数年先まで埋まっていることも。やはり、まずは日本で親しくなったギャラリーに相談してみるのが手だろう。場合によっては仲介に入ってくれることもある。特に海外のアートフェアの常連のギャラリーは、コネを持っていることが多い。また、コンサルタントに一任するという方法も。

Q.予約はできる?
1年後なら買えるんだけど…。

予約だけをして1年後に購入(決済)することはできないが、予約の時点で支払いを済ませるのであればOK。ただ、現金分割払いの場合は、たとえ3年のローンだとしても完済後の引き渡しとなる。……余談だが、ローンが終わってすぐに転売する人もいるとか。数年かけて支払っている間に、作家の評価がグンと上がっている可能性があるということだ。また、人気作家のウェイティングというパターンもあり、完成したら知らせてほしいとギャラリーに伝えておくことはできる。ただ、完成した作品がイメージしていたものと違う可能性も……。

Q.連作の作品は
揃えて買わないと
意味がない?

まとめて買ってもらうのは、作家やギャラリー側としては嬉しい話。実際、シリーズで持っている方が価値は上がる確率も高くなる。でも金額も上がるし、現実的ではないかもしれない。例えば、デイヴィッド・ホックニーの雨や太陽を描いた「ウェザーシリーズ」にしても、その中で人気のあるものは決まっていて、マーケットに流通しているのはバラバラだ。ということで「あなたのお好きにどうぞ」というのが答え。気をつけたいのが、セットの作品として販売しているものに関しては、バラしてしまうと価値が下がってしまうことだ。

Q.税金ってどうなる?

税金上のメリットとして、平成27年1月1日以降に100万円未満の美術品を購入した場合には、経費算入の対象となる“償却資産”として扱うことができるようになった、ということが挙げられる(近年、法律の解釈の変更により設定)。忘れてはならないのが、税法上の制度があるのでアートを購入した際に領収書の但し書きは“美術品”と明記してもらうこと。ちなみに、償却資産として経費算入した作品には固定資産税がかかるケースがあるが、これには複雑な判断が絡むそう。わからないことは自己判断せず、税理士など専門家に相談したい。

Q.飾ったり、保管するうえでの
注意点は?

直射日光や蛍光灯などの紫外線は、絵の色を退色させてしまうので注意。また、高温多湿な場所ではカビが生えてしまう。かといって乾燥しすぎも×。さらに素材の伸縮を避けるため、できるなら環境を一定に保ちたい。ちなみに美術品の保管業務を行っている寺田倉庫では、防カビ・害虫駆除のため気体の薬剤を用いた“燻蒸”を定期的に行っているそう。また、収納する際には黄袋や差し箱への収納を。特に現代アートは長期保管方法が確立されておらず、最適な保管環境はケースバイケースなので、収納の際にはプロのアドバイスを仰ぎたい。

Q.買った作品の画像で
ポストカードを作ってもいい?

著作権に関する問題は非常に繊細。たとえ作品を購入しても、著作権は作家にあり。無断でポストカードなどグッズを制作することは違法行為なのだ(立派な犯罪です!)。ましてや販売してしまったりしたら、大変なことに。ただし、作家本人の許可をもらえればOKなので、作家やギャラリーに問い合わせてみて。ポストカードはダメでも名刺は作ってもいいよ、というケースもあるのだとか。また、コレクションが増えてきたので展覧会を開きたい!と思ったら、ぜひ挑戦してみよう。この場合、入場者から料金をとっても問題はない。

Q.作品が破損したら直してもらえる?

少しの手直しで修復できることが明確な場合でも、自分で直すなんて問題外!作品の価値を下げてしまったり、取り返しのつかない事態を招いてしまうことも。素人が安易に手を加えて、作家の世界観を壊してしまうことは絶対に避けたいもの。そう、プロに委ねるべし。故意に破損したものと自然に壊れてしまったものでは扱いは違うが、とりあえずは購入元に聞いてみるのが賢い選択。作家自らが修復を受けてくれることもあれば、修復業者を紹介してくれるケースもある。費用に関してはまちまちで、一概にはいえない。

Q.購入した作品を
手放したくなったら
どうするの?

買ったギャラリーに持ち込むのが◎。またはそのアーティストを扱っているギャラリーでもいい。いずれにせよ、その作家の価値を熟知しているところへ。買い取りか委託販売かも選べるが、売値がオリジナルよりも上下することは大いにある。また、オークション会社に相談する場合は、まずは見積もりを出してもらうのを忘れずに。どのくらいのパーセンテージで手数料がかかるかなど、条件は必ず確認しよう。だがなんといっても、ギャラリーがオークション会社との仲介に入ってくれる場合もあるので、とにもかくにもギャラリーを頼るべし。

協力/小山登美夫(小山登美夫ギャラリー)
   小松隼也(長島・大野・常松法律事務所)
   寺田倉庫