DISCOGRAPHY
歴史に残る名盤もいいけど、80年代のアレサも最高!
ゴスペルに端を発し、R&Bからポップスまで、さまざまな作風の曲を歌ってきたアレサ。長いキャリアの中に残した、レコーディング作品の中から見えてくる彼女の魅力とは。
「曲調やアレンジを問わず、とにかく歌がうまいので、なにを歌ってもアレサの作品にしてしまう。僕が高校生時代にゴスペルの聖歌隊の伴奏を手伝っていたこともあり、教科書として聴いていた『至上の愛〜チャーチ・コンサート〈完全版〉』。そして、初めて名曲『Respect』を聴いたライブ作品の『Live at Filmore West』。
サイモン&ガーファンクル『明日に架ける橋』などのカバーもいいけど、『Spirit In The Dark』のゴスペルフィーリング溢れる陶酔感が素晴らしい。バークリー在籍時に知り合いのDJから教えてもらった『Jump To It』はディスコ期の名作。アレサの声は強さとともに、”抜けのよさ”がある。彼女の声にディレイなどをかけて加工しているんですが、これが実に気持ちがいい。70年代には絶対にやらなかった手法だと思いますが、技術の進歩などに寛容さがありますね」
COVER SONG
意外とミーハー⁉ 女王にカバー曲が多い理由とは。
ライブはもちろん、レコーディング作においてもカバー曲が多いアレサ。60年代に、男性の心情を歌った「Respect」やザ・ローリング・ストーンズ「Satisfaction」など、彼女が歌うことでリスナーを勇気づけ、女性の地位向上の讃歌として愛されたという逸話も。
「アレサは、長いキャリアのわりにオリジナル曲は少なく、アレンジも必要最低限な調整以外はタッチせず、歌手に徹しました。「Respect」は1965年にオーティス・レディングが歌い大ヒットした曲だけど、アレサがカバーしたのが67年。それほど時間を空けずに取り上げたのは、どんな曲を取り上げても、自分のものにできるという揺るぎない自信からきていると思う。
『A Natural Woman』(68年)をアレサに提供した、シンガーソングライターのキャロル・キングの「You've Got a Friend」。『至上の愛』で取り上げ、完全にゴスペルにしています。『Aretha』(80年)では、CMソングでもお馴染みのディスコナンバー「What a Fool Believes」を歌っていて。最高です」
LIVE
現代のR&Bシンガーにも影響を与えている、アレサのフェイク。
多くの人の耳を奪う、アレサの歌声は教会で培われてきたものだという。
「現在のライブステージでは、モニタースピーカー(ほかの楽器の演奏やコーラスの声などをチェックするため)が、必ず各演者の前に設置されていますが、映画『アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン』の会場にはないんですよね。だから、アレサやバンドメンバー、聖歌隊が近距離に集まり、ほかの演奏を生音で聴きながら、演奏している。
色艶やかな衣装の聖歌隊や、僕はドラマーのバーナード・パーディが大好きなので、思わずバンドの方へ目が行ってしまう。そんな状況でも、やはりアレサの歌が真ん中にある。聖歌隊が歌う主旋律とは別に、リードシンガーが同じフレーズを崩した形で歌う”フェイク”はやはり天下一品。ゴスペルの歌唱法で、アレサ自身も多くの歌手から影響を受けたと思いますが、ポップスのフィールドでは、これが初めてじゃないかな。現在のR&Bシンガーにも影響を与えています」

2021年公開
"アレサ"をより深く知る映画2作品。

『アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン』
歴史に残るチャーチコンサートの様子を映画化!
1972年、LAのニュー・テンプル・ミッショナリー・バプティスト教会にて録音され、アレサ史上最多セールスを記録したアルバム『至上の愛』。同時に、劇場映画版としても収録されていたが、諸事情が重なり残念ながらお蔵入り。約50年の時を経て公開されたドキュメンタリー作品。
「留学時のクラスにゴスペルを演奏している同級生がいました。複雑な歴史のある音楽だけに躊躇しましたが、興味があったのでサークルに入ってみると、歓迎してくれました。その時の経験から『至上の愛』の演奏は、ラフでアドリブを重視したものだと思っていた。しかし、映画を観ると慎重なリハーサルや修正を重ねていて驚きました。本当に歴史的な価値のある作品だと思います」


『リスペクト』
歌うことで、多くの人を救ったアレサの激動の半生。
1942年に牧師とゴスペル歌手の間に誕生したアレサ・フランクリン。さまざまな苦労と困難を経て、歌手デビュー前から最大のヒットアルバム『至上の愛』制作までを描いた自伝映画。ブロードウェイ・ミュージカルや、今後実写ドラマシリーズ『美女と野獣』を手がける予定のリーズル・トミー監督。アレサ役を『ドリームガールズ』で知られるジェニファー・ハドソン、父C・L・フランクリン役をフォレスト・ウィテカーが演じる。
働く男の愚痴だった「Respect」も、アレサが歌えば女性の地位向上ソングに。転機となったマッスル・ショールズ・サウンドとの出会い。そして、キング牧師暗殺がきっかけとなって生まれた『至上の愛』など。70年代前半までのブラックミュージック史も垣間見える一本。
