巨匠たちのギャップ
荒内佑
僕が選んだ作品も、基本的に観ると元気がもらえる作品かもしれない(笑)。ドキュメンタリーの名匠、メイスルズ兄弟が監督した『ドキュメンタリー“OZAWA”』は、冒頭からオーケストラを前にした小澤征爾さんの顔のドアップ。
めちゃくちゃ緊張感溢れる演奏シーンが続く中、食事をするシーンでは、ヨーヨー・マが少し引くくらい変わった小澤さんの素顔も映し出されていて。
奥田泰次
普通カットしそうだけど。
荒内
そこは、さすがメイスルズ兄弟という感じでしたね。
荒内
スティーヴ・ライヒの『シティ・ライフ』は、本人自らNYの街頭で街の騒音を録音し、自宅スタジオでサンプラーに取り込み作曲していく。現代音楽/クラシックの作曲家でサンプラーを使っていた人は少ない時代だったから、ドヤ顔で使っているのもかわいい。
しかし、そうやって作っていた曲が、いきなりドイツのオペラハウスで演奏されるという。制作とライブのスケール感に差があって。観ていると楽しい気分になってきます。
奥田
僕はいろいろなスタジオの様子が観たいかな。レゲエやダブの数々の名作が録音された『ロイド・バーンズとワッキーズの輝き』(廃盤)。
バーンズが動いている姿が拝める。老舗スタジオの〈サウンドシティ〉の功績を振り返る作品はツッコミどころ満載。スタジオマンの機材の扱い方が大袈裟だったり(笑)。
荒内
わかるものですか?
奥田
まあ、演出ですね。
奥田
イヤホンやヘッドホンの機能や、配信の音質が向上しているおかげで、サブスクリプションやストリーミングで音楽ドキュメンタリーを観る機会が増えましたね。情報収集のつもりが、音がいいから、つい観始めちゃったりして。
動画から得る、
未知の音楽
荒内
知らなかった海外の音楽を携帯やパソコンから知る機会も増えましたよね。VICEの『ハウスから進化した南アフリカ電子音楽事情』は、クワイトという現地で流行っていたハウスミュージックに興味があったので観ましたね。
奥田
VICEでは『noisey ATLANTA アトランタ トラップ最前線に潜入』。サグいシーンも多くて、よく密着したと思う。基本的に手持ちのカメラで収録しているけど、『noisey ATLANTA』の場合はリアルな感じがよく出ていて。
ライブ会場を仮想体験する
奥田
先日、アップルが始めた空間オーディオが、サブスクリプションでも導入されてきて(AirPods Pro、Maxのみ対応)。例えば、画面に顔の右側を向けると、左側のボリュームが遠ざかるような。ライブ会場や映画館にいるような仮想空間が体験できるんです。
ライブシーンはもちろん、外で人が歩きながら話しているシーンでは、声だけでなく、街の喧騒も表現されていて、一緒にいるような感覚になる。まず、その技術に驚かされました。
荒内
ドキュメンタリー向きだ。すごい技術が必要なんですか?
奥田
僕も取り扱う機会が増えてきたけど、始まったばかりだから、これからますます進化していくと思う。過去の作品も変換が進んでいるけど、やっぱり空間オーディオを意識して制作された最新作はすごい迫力がある。
『ヒップホップ・エボリューション』や『This Is Pop』、それから『Song Exploder─音楽を紡ぐ者─』などは、バッチリ音の3D体験ができる。


荒内
特にオススメの作品は?
奥田
ヒット曲やジャンルの歴史を紐解いていく『This Is Pop』。第2話の「オートチューン」かな。今では一般的になったボーカルエフェクターだけど、ブームの立役者であるT・ペインが出てくる。
ジェイ・Zが「デス・オブ・オートチューン」とか猛烈にディスられるんだけど、その後にカニエ・ウェストがフォローしてくれて「グッド・ライフ」という曲が生まれたり。T・ペインが思わず涙ぐんじゃって(笑)。
荒内
グッときますね。
奥田
空間オーディオの作品はさらに増えるし、作り手の技術や機材も向上すると思うから、今後どんな驚きのシステムが出てくるか、楽しみです。
