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アーティスト・浜名一憲が通う、目利きの店。千葉〈APOLOGIA〉

店の雰囲気、品揃え、店主やスタッフの人柄。思わず足を運んでしまう理由は人それぞれ。目利きたちに聞いた、“信頼できる店”とは。

photo: Sana Kondo / text: Shiori Fujii / edit: Chizuru Atsuta

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セレクター:浜名一憲(アーティスト)

インスタグラムで見かけて、写真や世界観がいいなと気になっていた骨董店〈APOLOGIA〉。センスを信頼している友人にも薦められたので実際に行ってみたら、店主の田口雅啓さんとすごく感覚が近かったんです。選ぶものは、従来の骨董商とはまったく違う。

というのも骨董は、出自や何焼きかという“文脈”が重視されすぎる傾向にありますが、彼は直感でのびやかに選んでいるんですね。僕も焼き物の修業や美術の勉強をせずに、自分の生き方の表現の一つとして壺を作っているから、そんなアプローチにシンパシーを感じました。

例えば以前にここで買った木のコブは、旅館や実家で見かけるようないわゆる銘木。たいていツヤツヤしていて今や誰も見向きもしませんが、彼はニスを剥離させてまったく別の佇まいに仕上げていたんです。ものの魅力を発見し、新しい価値観を作っているという点では、骨董商よりアーティストと言えるかもしれません。

もちろん文脈や稀少さも大切で、知ることが面白さでもありますが、従来の骨董だと文脈を間違えただけで価値が下がってしまう。その点、この店にあるものは、心に響くものだけが選ばれている。世の中で価値が認められているかどうか、売れやすいかどうかなんて考えていないんです。英語で饒舌(じょうぜつ)に説明しているわけではないのに、外国のお客さんが9割を占めると聞きました。

それは、文脈よりも世界観が大切ってことなのでしょう。僕の作品を見に来る世界中のギャラリストやアーティストなど目利き中の目利きたちが「日本に来たなら〈APOLOGIA〉にも行きたい」と、口を揃えて言うことからもわかります。どんなに不便な場所にあっても行ってみたいと思わせてくれる、ほかにはない店なのです。

千葉 APOLOGIA 店内
壁には、古い蔵戸や錆(さ)びたコイルスプリング、竈神(かまどがみ)が。独自の仕上げをしたことで、元の姿ではわからなかった形の美しさや木の表情の魅力が引き出されたものも多い。

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