時代ごとに移り変わるアニメソング
岩崎太整
僕たちはいわゆるジャンプ黄金期世代。当時のジャンプを開けば、今やレジェンドになっている漫画家たちが揃って描いていて、そのアニメを観るという少年時代を過ごしました。
冨田明宏
僕も昔からアニメが好きでした。でも僕たちの世代って、アニメは中学生くらいで一度卒業するものという共通認識がありましたよね。
岩崎
そうですね。
冨田
小学生までアニメを観て育ち、中学生くらいになるとモテたいと思い始めたり、ほかの趣味ができたりして、高校生になる頃には、アニメを観ていると恥ずかしいという感情があった気がします。
僕たちの世代で、中高生でアニメが好きという人は、民放で放送しているものだけではなく、OVA(オリジナル・ビデオ・アニメーション)というジャンルを観ていました。しかし、それはだいぶマニアックだと周りに思われるので、よほど仲のいい友達じゃないとその話ができませんでした。
岩崎
90年代の終わりは、まだ作品に触れる方法がテレビかレンタルビデオ店でしたよね。レンタルビデオ店に行って、自分でアニメを借りるハードルの高さは存在していました。OVAの作品はたくさん出ていたけど、それを借りてアニメを一気に観る文化は、まだその当時は秘めた趣味という認識があったと思う。
冨田
そうなんです。当時はアニメを放送している時間帯が朝か夕方しかなかった。「オタク」とか「アニメ好き」と呼ばれる層が拡大されたのは、2000年代に入りアニメが深夜に放送されるようになってからのこと。
アニメ放映の主戦場が深夜になってから、作品の方向性が大人向けになり、音楽の受け皿が大きくなりました。僕がアニメソングの面白さを再発見したのも2000年代の頭くらい。深夜に音楽性の高いことを、こういう作品でやっているんだと目の当たりにしました。
岩崎
平成に入ってアニメの主題歌は随分変わりましたね。かつては「タイトルを連呼する」ような歌が主流でした。
冨田
昔はタイトルや主人公の名前、必殺技が必ず歌詞に入っていましたね。
岩崎
それが変化していったのが、昭和の終わり頃に『シティーハンター』の放送が始まったあたり。エンディングテーマを劇中から流してしまうという。あれは発明でしたね。
冨田
実写ドラマの手法なんですよね。
岩崎
そして、昭和が終わって平成に入り『YAWARA!』で平成アニメソングの幕が開いたと個人的には思っています。驚きました。「アニメの曲がこんな洒落てていいの?」って。
冨田
本当に衝撃的でした。
岩崎
ポップスの歌手がアニメの曲を歌って、それがチャートに入るようになり、そのあたりからアニメの主題歌が市民権を得るようになったと思います。普通に聴いていて恥ずかしくない曲になっていったんですね。
冨田
昭和の方が「アニソンとはこうあるべき」というのが定義しやすかったのかもしれません。
岩崎
平成になってタイトルの連呼をやめ、楽曲そのものの良さを追うようなものも増えていきました。そのなかで『マクロスF』で使われた「星間飛行」「ライオン」などは、楽曲が作品と同じレベルで認知されるようなものでしたね。
冨田
「ライオン」は、10代の子たちもカラオケで歌うし、シンガーのオーディションで歌う子も多いです。でもその子たちに話を聞くと、アニメは観たことなかったりするんですよ。
岩崎
結構昔の作品ですからね。
冨田
15、16歳の子たちがオーディションでこの歌を歌うのが不思議なんですが、これは完全に曲が一人歩きしているからでしょう。
岩崎
近年の愛されるアニソンの萌芽という感じがしますね。
現在のアニメソングは思いやりの塊
冨田
岩崎さんもいくつかのアニメの劇伴を手がけていますね。実写とアニメで音楽のつけ方は変わるものなのですか?
岩崎
基本的には変わらないけれど、実写よりアニメの方が音楽が幅広い気がします。実写の場合は、ドラムの音が嫌がられるんです。リズムが鳴った瞬間、MVみたいに見えちゃう。お芝居のテンポ感をドラムは決定してしまうことが多いんです。でもアニメは意外と耐えられる。
冨田
たしかに、アニメには普通にドラムが使われていますし、四つ打ちの曲もある、ビートだけで作る曲もあります。ドラムを使えなかったら『血界戦線』の劇伴は厳しいですもんね(笑)。
岩崎
そうそう。僕はドラムが好きだから使いたいのですが実写で四つ打ちを使ったら、そのシーンだけ特別な、かなり恣意的なシーンに見えてしまうことがあります。
冨田
アニメの場合、足りない説得力を埋める役割が音楽にあると思います。躍動感を実写よりもわかりやすく演出しなければならないので、そこをドラムやビート、グルーヴが担っているのかもしれないですね。
岩崎
そうかもしれないですね。『ひそねとまそたん』の主題歌、劇伴を担当した時は、今の主流のアニメソングの文脈ではない方法を使おうと思い、オーケストラや和楽器の要素を入れました。
冨田
ああいう曲がアニメに使われるのはとてもいいと思います。今のアニメソングは、いろんなジャンルが音楽性として盛り込まれているといわれながらも、なんとなく画一的なものが多くなっているという雰囲気があって。
岩崎
そうですね。
冨田
テンポが速い。サビ頭で始まる。タイトルは叫ばないけれど、聴いたらアニソンだとわかる曲ですね。誰も規定していないけれども、自然と生まれたルールに倣っている感じはなんとなくあります。
岩崎
曲としては同じではないけれど、構造としては画一化している。アニメの主題歌は、BPMが140を下ることはほぼありません。だからかなり高揚感があります。そして、転調からは絶対に逃れられない。
冨田
逃れられないですね。映像の場面が変わるから、緩急をつけたくて。
岩崎
単純に言えば飽きさせない構造ということですね。イコライザーを使って、5Kあたりの音の帯域をすごく上げています。5Kとは高音域で、ここを上げると音がバキバキに聞こえるんです。
アニメソングはそれを多用している。そういう作り方が多いので、曲の骨が似ることは多いですね。
冨田
アニメを作る側は、作品を3ヵ月間観続けてもらわないといけないから不安もあるのかもしれません。だからオープニングでもフックを作りたい。さらにライブで演奏した時もお客さんに盛り上がってほしい。そんな思いがアニメソングには詰まっています。
岩崎
すごく日本人的だと思います。今のアニメソングがそういう形になったのは、誰かが始めた手法を真似ているわけではないと思うんです。とにかく派手に見せたい、聴かせたい。
アニメを観てほしいという思いやりがそうさせていった。アニメソングがすごく面白いのは、作曲家の音楽性よりも、思いやりを詰めに詰め込んだ結果、バキバキのものが出来上がっていったところにあると思います。
冨田
アニメーションをつけやすく、タイトルを乗せやすく、サビでキャラクターたちが集いやすく、とか。僕が担当する時も、アニメの作り手への思いやりを無意識に込めている気がします。
岩崎
アニメの音楽を作っている人、みんないいやつなんだと思う。「なんとかしてあげたい」という思いが凝固した結晶が、今のアニメソングという気がします。
冨田
だからこそ特殊で面白いという言い方もできると思います。