「本当なのか、妄想なのか。わるいやつは犯人だけではない」(ANI)
ANI
『ブレイキング・バッド』とか『ナルコス』とか、麻薬がらみのクライムドラマをよく観てて。でも、麻薬の話って身近じゃないからよくわからないじゃん。で、わる〜いやつらがいっぱい出てくるドキュメンタリーで知識を深めるようになった、というのが最初。
岡宗秀吾
『ナルコス』はパブロ・エスコバルの実録ドラマだもんね。コロンビアの麻薬密売組織〈メデジン・カルテル〉のドン。
ANI
そういうのを端から順番に観てったら、なんかもうさ。
岡宗
オススメされるんすよね。
ANI
AIに(笑)。
岡宗
僕のリストも麻薬と暴力とアウトローばっかですもん。
ANI
で、AIが薦めてきて観たので面白かったのが『ドラッグ・ビジネス』。秀吾にすぐ連絡した。「アレ観たか」(笑)。
岡宗
「アレ観たよ」(笑)。世界にはなぜこんなに麻薬が蔓延してるのか、産業構造はどうなってるのかを麻薬の種類ごとに細かく教えてくれるという。オックスフォード大出身で元CIAのアマリリス・フォックスという才女が。
ANI
アマリリス!
岡宗
コマネチ!みたいに言いなさんな(笑)。とにかく、アマリリスが関係者の話を聞きまくる。売人、ユーザー、取り締まる側。
ANI
あと、生産者ね。どうやって作られるのか、その歴史と。
岡宗
なんでコカインは作られるのか、なんでコーヒーやバナナじゃなくコカインを育てるのか。あれはみんな観た方がいい。我がこととしか思えなくなるから。

ANI
それに関連したので挙げると『Dope/ドープ』。麻薬戦争の現状に迫る系シリーズ。密売の話を都市別に紹介するやつ。
岡宗
これ、面白いのは両サイドにカメラがついてることで。警察側と売人側と両方。取材側が連絡取り合ったらバレちゃうっていう、ギリッギリの取材をしてるんです。
ANI
これで鎮痛剤がすごいことになってるのを知った。フェンタニル。マイケル・ジャクソンもプリンスもこれで死んだもんね。

岡宗
で、ドラッグの種類をいろいろ押さえたら、次に学ぶべきは麻薬王の人生ですよ(笑)。
ANI
『世界の麻薬王:その光と闇』。エスコバル、ロドリゲス兄弟、フランク・ルーカス。
岡宗
僕が好きなんは、メキシコを仕切るエル・チャポ。彼はいま、逮捕されて刑務所にいますけど。
ANI
ショーン・ペン、会ってインタビューしたんだよね。
岡宗
それがキッカケでエル・チャポの居どころが割れ、逮捕されちゃった。しかし、Netflixも命懸けよ。ホンモノを相手に、トラブルの渦中に入っていくんだもん。
ANI
生々しい。それがドキュメンタリーの醍醐味だけど。

岡宗
わるいやつらの化けの皮をはがす系も面白いです。『ジェフリー・エプスタイン:権力と背徳の億万長者』。これはエグい。
ANI
エプスタイン事件ね。この人結局死んだけど、消された説。
岡宗
自殺といわれてますが、変死です。エプスタインはものすごく頭のいい男。アメリカの政財界・芸能界のセレブが仲間にいて。で、この人、エプスタイン島って島を持ってて。
そこで、セレブを集め、少女売春斡旋と性虐待を繰り返していたと。被害に遭った女性たちが告発し、エプスタインは逮捕、獄中で謎の死を遂げたと。
ANI
コイツが捕まると都合の悪いセレブがわんさかいるでしょ。
岡宗
エプスタイン島の搭乗記録には名だたるセレブが並んでて。国の中枢に関わってる人もいて。
ANI
わるいやつらだなあ。
岡宗
とはいえ、これを報道できるアメリカね。日本では無理。本当はこういうのをもっと作らなくちゃいかんのです、我々も。でも「やらない」し「できない」。それはなぜなのか。そこをもっと考えなきゃいけないんですよ。
ANI
秀吾、ええこと言う。セクハラ告発といえばこれも。『サバイビング・R.ケリー』。エプスタイン並みにゲスいやつ。
岡宗
僕、これ観てへんわ。
ANI
R・ケリーって結構人気のR&B歌手で。色男だからモテるんだけど未成年相手にひどいことをしてると告発されて。もう表には出られない。有罪になったし。

岡宗
あと、わるいやつらといえば、やっぱ人殺しでしょう。
ANI
『コンフェッション・キラー:疑惑の自供』は連続殺人鬼の話だけど、これ、ひどいの。人殺しの犯人はもちろんだけどさ、それに輪をかけて警察がひどい。
岡宗
これも観てへんなあ。
ANI
ヘンリー・リー・ルーカスっていう連続殺人犯が逮捕されるんだけど、あれもこれもオレが殺したと300人以上の殺人を自白するんだけど、よくよく調べるとつじつまが合わない。結局、事件を解決する能力のない警察がヘンリーがやったとして片づけて、ヘンリーも注目されるから調子に乗って自供したのが内情で。
この人、結構、有名な殺人鬼に祭り上げられて『羊たちの沈黙』のレクター博士のモデルにもなって。買いかぶりすぎだったっていう。

「本当はこういうのを作らなくちゃね、我々も」(岡宗秀吾)
岡宗
名誉欲、承認欲求がどんどん肥大化したんやろね。猟奇殺人犯のスターになるんやと。そういうのでいえば、『邪悪な天才:ピザ配達人爆死事件の真相』。
ANI
あれって、結局なに?
岡宗
ピザ配達人が配達先で首に時限爆弾が仕掛けられ、動いたら爆発させられる、どうしようと。警察が時限爆弾を解除しようとするも爆発してしまう。計画したやつらを調べていくんだけど、関係者がどんどん消えていくという。
ANI
『事件現場から:セシルホテル失踪事件』はどうなの?秀吾の得意なトワイライトゾーン的なカンジの話でしょ?
岡宗
これがさ、ロスのセシルホテルに女子大生が一人でやってきて宿泊するんだけど、突然失踪するんですよ。外に出た形跡はなく、ホテルの中でいなくなる。隅々まで捜したけどいない。死体もない。すぐに公開捜査になって。手がかりは防犯ビデオに映る姿のみ。一体どこへ消えたのか。ネット上がものすごい騒ぎになって。
数週間後、彼女は屋上の貯水タンクの中で全裸死体となって見つかる。謎だらけ。ま、なぜ彼女がそうなったかは観ればわかるんだけど、それとは別に、まったくの無実の人が犯人とされてしまったり、陰謀論が発生したり、ネットからどうやって噂が生まれるかという検証にもなってるのが面白くて。
ANI
へーえ!
岡宗
だからこれ、「ネットのわるいやつら」の話なんです、実は。
ANI
不思議といえば、NHKの『未解決事件』シリーズでやった『NHKスペシャル未解決事件File07 警察庁長官狙撃事件』。ちょっとヘンリー・リー・ルーカスっぽいというか。男は「警察庁長官を撃った」と言うけど、よくわからないじゃない。本当なのか、妄想なのか。
警察はオウム真理教の犯行に違いないって思い込んじゃってたし、それでずっと動いてたし、それに予算も使ってるからそこで全然違う犯人が出てくると警察のメンツが、的なさ。
岡宗
おかしな話だよね。
ANI
メンツで未解決になるっておかしな話ですよ。しかし、この犯人にちょっと憧れるっていうかさ。こんなに頭が良ければこんなことができるんだ!って(笑)。

岡宗
アレ観た?『監視資本主義:デジタル社会がもたらす光と影』。これもある意味わるい。
ANI
観た。自分で選んでいるようで選ばされているっていう。
岡宗
フェイスブック、ツイッター、Google、いわゆる巨大ITで働いていた人たちが、アルゴリズムでみんなをスマホ中毒にさせてました、と告白をする。フェイクニュースを含めた情報も、個人の嗜好に合わせて出すことで、言論の二分化、分断化に拍車をかけたと。
最悪なのは、そこに思想も正義も何もなく、ただただ金儲けのため、どれだけ長い時間スマホに釘づけにさせるかに夢中になってたと。そうした面のあるNetflixがあえてこのドキュメンタリーをやる、そこにもちょっと感動して。
ANI
結局、スマホも麻薬と同じだよ。オレらは大人になってから接してるけど、これが物心ついたときからある子たち、どんな大人になんのかなーって。
岡宗
やっぱりスマホがないと生きていけへんでしょうね。
