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『ファイナルファンタジー』を描いた画家、天野喜孝のアトリエへ。「ゲームは正解がないから面白い」

天野の画(え)ははとびきりの引力で、我々をファンタジーの世界へ送り込んでくれる。どのように作品が生み出されるのか。彼のアトリエで話を聞いた。

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photo: Shin Hamada / text: Masae Wako

ファンタジーもゲームも自由。正解がないから面白い

ゲーム界に革命をもたらしたRPG『ファイナルファンタジー』。そのキャラクターデザインやイメージイラストを手がけてきたのが、画家の天野喜孝だ。妖艶で繊細、上品で躍動的。天野のはとびきりの引力で、我々をファンタジーの世界へ送り込む。

1987年、小さな制作会社だった〈スクウェア(現スクウェア・エニックス)〉にキャラクターデザインを依頼された天野は、スタッフのアイデアのもと、美麗な光の戦士や斬新なモンスターたちを創造した。

「実は僕、ゲームはあまりやらなくてね。でもゲームといえばドット絵でしょう?せっかくだからドットでキャラクターを描いてみたんです。そしたら“違うよ天野さん、いつものリアルな画がいいんだ。後でデフォルメしてドット絵にするから”って」

かくして緻密に描き込まれた原案が、『ファイナルファンタジー』の確固たる世界観を構築した。ゆえにドット絵も、プレイヤーの脳内ではリアルな画に変換される。

「画のアイデアは、打ち合わせ中に浮かんだ第一印象が重要かな。頭の中にビジュアルが湧き上がってくるんです。それを自分の中で膨らませてから、画に落とし込む」

ゲームのプロットを入念に読み込んだりはしない。情報が少ない方が自由に描けるし、より濃密なイメージが広がるから。

「誤解して描いているところもあるんだろうな。でもファンタジーはデタラメだから面白いんですよ。ファンタジーゲームは神話を基にしたものが多いけれど、神話も、この世に存在しないものを想像し、解釈を加えながら作られてきた。正解はないし、だったら誤解でも好きに描いた方が面白い」

そんな天野はゲームだけでなく、絵画に本の装幀に舞台美術まで、広く活動し続けている。NFTアートやVRにも意欲的だ。

「エンターテインメントは目的じゃない。その奥にある世界を体験する手段だと思うんです。中でもゲームは、自分がプレイヤーとして世界に入っていけるところに革新性がある。僕の仕事は、そのためのイメージや世界観を提供すること。ほかのジャンルで体感したことが、ゲームの仕事にも重層的に入り込んでいる感覚はありますね」

だからこそ天野のファンタジーには、いろんな人が共感できる余白と懐深さがある。「そこから何をどう感じてもいい。ファンタジーやゲームはどこまでも自由です」

天野さんのアトリエで、貴重な原画の一部を拝見!

「描く時はまず構図を考えます。下描きは最低限にして、手の勢いを生かすことが多いですね」

BRUTUSの表紙を飾るファンタジーRPGの主人公を天野さんが自由に描いたら?

お題を聞いてすぐに浮かんだのは、端正で力強いモノトーンのキャラクター。西洋的な佇まいに、日本の武将や侍の要素を融合させたら格好いいだろうと思い、「剣を持たせよう」と決めました。僕が長く手がけてきた作品のキャラに、弟か従兄弟がいたらこんな感じがいいなって。名前はやっぱり“ブルータス”かな。

天野喜孝_BRUTUS表紙