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写真家・アレック ソスにインタビュー。切り取られた余白から“物語る”写真について

2004年に発表された、ミシシッピ川に沿って旅をしながら撮影を行った『Sleeping by the Mississippi』でホイットニー・ビエンナーレに選出され、一躍注目を集めた写真家、アレックス・ソス。「写真と詩は似ている」とソスは言う。自分の心の声に耳を傾けてコンセプトを練り上げ言葉の断片とともに旅に出る、撮影スタイルについて話を聞いた。

photo: Keisuke Fukamizu / text: Keiko Kamijo / interpretation: Yoko Oyabu

日本で初となる待望の個展が開催中
風景の断片が物語る、アメリカの現代

折り重なる葉に景色を見るように、
断片から想像力を広げる。

神奈川・葉山にある神奈川県立近代美術館の葉山館で、写真家アレック・ソスの個展が開催中だ。アメリカを題材とする5つのシリーズ『Sleeping by the Mississippi』『NIAGARA』『Broken Manual』『Songbook』『A Pound of Pictures』を紹介する大規模なもの。展覧会タイトルはアメリカの詩人ウォルト・ホイットマン(1819-1892)の詩集『Leaves of Grass』の一節を引用している。

「葉っぱは常に生長していきますが、私のそれぞれのプロジェクトにも似たような点があると思い、タイトルをつけました。複数のプロジェクトを一堂に見せる展示で、空間ごとに異なるサイズ、フレームで構成しています」とソスは語る。

ALEC SOTH/アレック・ソス

プロジェクトごとに空間の雰囲気はガラリと変わる。展示は空間と対話しながら行っていったが、一番難しかったのは『A Pound of Pictures』の空間だという。

「ランダムな写真に意味を与える今回のような展示は初めての試み。最後までどうなるかわからずスリリングな体験だった」

このシリーズは、2018年からスタートしたもの。フレームなしでラフに展示されている作品に混じって、ソスが収集しているヴァナキュラー写真(作家性のない家族写真やアルバム等)が展示されている。展示室の一角には海側に開けた大きな窓があり、燦々と自然光が降り注ぐ。大きなサイズでプリントされたソスの作品の中に、時折撮影者不明の小さなスナップショットが点在する、作品の大きさや紙の質感の違いを空間全体で体感できるフィジカルな展示である。と同時に、時代も撮影者も異なる関係ないはずの作品同士が呼応し、頭の中で新しい物語が生まれる。

旅で偶然をつかむための言葉

ソスの撮影スタイルはこうだ。まずは自身の内なる声を聴き、考え抜いて作品のコンセプトを組み立てる。キーワードをいくつか紙に記し、それを車のハンドルに貼ってロードトリップに出る。旅の期間は、コンセプトを意識しつつも予想外のことにアンテナを張り巡らせ、撮影に没頭する。

「旅の間は何かを探そうと集中力を高めているんですが、ドライブに出てしまうと、世界に圧倒されてしまう。なので、あくまで被写体に辿り着くまでのきっかけとして、メモの言葉を記しています。釣りをする時は、この魚を釣ろうと思いながら行くでしょう。でもそういう時に別の魚に出会えることもある。その偶然をつかみ取るのが私の仕事なんです」

被写体が人物の場合も同じだ。多くの場合、ドライブしながら偶然出会った人とポートレート撮影を行う。使用するカメラは大判の8×10。スナップショットの気軽さはなく、一定の時間を被写体と共有する。

「ハーフコンセプチュアル」とソスは言う。コンセプトを設定しつつも、それに縛られず偶然を呼び寄せるのだ。

同じアメリカでも撮影する時期や場所によって被写体の反応は全然違う。

「『Sleeping by the Mississippi』はすごくラッキーな撮影で一人も断られなかったんだ。でも、『NIAGARA』では人の撮影が非常に難航した。それは9.11の後だったからかもしれない。また、比較的裕福な人たちはノーと言いがちだったり、アメリカの中でも北は難しいけど南の人たちは受け入れてくれる人が多かったり。意外にも『Broken Manual』では、撮影に前向きな人たちが多かったんだ。それも面白かったね」

『Broken Manual』は2006年から4年の歳月をかけて行われたプロジェクトだ。資本主義から逃れてアメリカの僻地で隠遁生活を行う人々を撮影したもので、作品集では都市や文明から隔絶した場所でどうサバイブするかというマニュアルが架空の人物によって記された。「コンセプトは破綻してしまった」とソスは言うが、孤独を愛しながらも人を求める人間の欲望、それも含めて示唆に富んだシリーズだ。

現代アメリカを写すドキュメンタリーの要素もありつつ、詩的でありフィクショナルな想像も喚起する写真たち。「写真は詩に似ている」と言うソスに最後、詩と写真の共通点と相違点を聞いた。

「詩は、小説や映画のようにストーリーを語るのではなく、もっと断片的で余白がある。だから好きだし、写真に似ていると思う。写真のユニークなところは、一枚で見せる時と、展示空間、写真集とで常にコンテクストが変わること。時々それが欲求不満にはなるけど、写真のすべての可能性に対しオープンでいたいと思っています」

ALEC SOTH/アレック・ソス