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中川諒「赤恥研究所」#6:幻視と思いきや、これは現実だ。大衆の比較対象になった今、圧倒的不利を受け止められるか

日常に潜む、赤っ恥な場面をどう切り抜けるか。あなたの人間力が試されるときです。「恥」をポジティブに捉えることができれば、人生を切り拓くキッカケにもなるのです。人生のカンフル剤に、あなたはちゃんと向き合えますか?前回の「肛門誤操作」も読む。

text: Ryo Nakagawa / illustration: Kaori Asamiya

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『ドッペル服ゲンガー』

赤恥研究所_イラスト

みなさんは聞いたことがあるだろうか?ドッペルゲンガーの噂を。それは自分自身の姿を、自分で見てしまう幻覚の一種。古くからそれを見てしまうと、死ぬと言われていた。ドッペルゲンガーと死がつながっていたのは、「精神と肉体が離脱する予兆」だと考えられたからだそうだ。

しかし今となっては、もう一人の自分という幻覚を見た人は、脳に何らかの異常があったためにその後亡くなったのではと考えられている。

そんなドッペルゲンガーを、わたしは見てしまったのだ。電車の中。自分が座った隣の席に。そいつは、突然現れた。わたしとそっくりそのまま……な洋服を着た男。顔だけは、まるっきり違っていた。でも洋服は、瓜二つ。

あまりのお揃いっぷりに驚いて注意深く見てみると、そのわたしの「偽物」は、わたしよりもいくぶん背が高く、間違いなくわたしよりイケメンだった。横に並ぶと、ビフォーアフターのビフォーはわたし。アフターが彼。わたしの上位互換みたいなものだった。ああできれば、こんな顔に生まれたかった。誰が見ても、彼の方がわたしよりも同じ洋服が似合っていた。

着てきた洋服がまるかぶり。この事故は、なかなか避けようがない。そして無情にもこの事故は、犠牲をともなう。「どちらが似合うのか」という、無意識の比較をはじめてしまうからだ。でもここで勝ち負けを競い合ってはいけない。

比べた時点で「負け」なのだ。いっそのこと「洋服がめちゃくちゃかぶってますね!」と笑いながら話しかけてみよう。同じようなものを選んでいる時点で、価値観が近い可能性はかなり高い。「ドッペル服ゲンガー」は死の予兆ではなく、あなたの新しい友達のサインかもしれない。

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