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蒸留酒のムーブメントのその先へ。テロワールを楽しむ“神の酒”「メスカル」がブームです

テキーラと並んで、バーなどでよく耳にするようになった「メスカル」。テキーラと原料を同じとする蒸留酒だが、その違いを知る人は少ないのではないか。日本の業界でも、トレンドとして注目され始めているお酒の最前線を追う。

photo: Satoko Imazu / text: Yuka Ito / edit: Asuka Ochi

メスカルってどんなお酒?テキーラとどう違うの?

今、世界のバーシーンを席巻し、日本でもブーム到来が予感されているお酒「メスカル」を、もう飲まれただろうか?近年、お酒業界のトレンドとして「クラフト」や「ナチュラル」のキーワードが挙げられるが、メスカルは、そこにさらに「伝統」と「ヘルシー」が加わったメキシコの蒸留酒である。

メスカルの原料は“アガベ”(リュウゼツラン)。ロゼット状に広がる個性的な形で観葉植物としてのファンも多い、アメリカ大陸原産の多肉植物だ。メキシコのアガベの酒といえば「テキーラ」があまりにも有名だが、歴史を紐解けば、実はテキーラも元はメスカルの一部。テキーラ地方のメスカルが「テキーラ」と呼ばれるようになったという背景がある。メスカルの歴史はとても長く、古くは神話にも登場するお酒。「神様の飲む酒」とも言われ、メキシコでは祭事や儀式に欠かせないものだ。

では、メスカルとテキーラの違いはなにか?
まず「香りと味」が決定的に違う。グラスに注いだ瞬間に立ち上がる香りが、一般的にテキーラは爽やかな植物の香りがするが、メスカルは全体的にベーコンのようなスモーキーさがある。テキーラの味わいはスッキリ軽やかだが、メスカルは複雑で旨みがあり、ずっしりフルボディ。テキーラと違って加水されることも少ないため、度数もやや高め。ウイスキーの世界でいうならカスクストレングスだ。

また、メスカルは、よくワインに例えられる。ワインに使うブドウにたくさんの種類があるように、メスカルに使われるアガベの品種は200種を超える(諸説あり)。2022年現在、メスカルの製造が許されるメキシコの9州のなかでも、地域によって自生するアガベが異なり、原料となるアガベ品種は地域ごとに変わってくる。地域は5つの州に限られ、原料に1品種だけしか使用を認められていないテキーラと比べるとメスカルは多様性があり、品種ごと、地域ごとの飲み比べで「ワインのようにテロワールを楽しめる酒」なのだ。

アカベを収穫している人
原料として使用できるようになるまでには5〜6年以上。人の手で丁寧に収穫される。

そして、メスカルの製法は「クラフト」で「ナチュラル」。メスカルにもいろんな種類があるが、大部分のメスカルは“パレンケ”と呼ばれる小屋で、人間や動物の力で少しずつ丁寧に作られる。メスカルの生育期間は品種ごとに異なり、長いものでは25年以上かかるものもあり、オーガニックの野生の原料を使うことも多い。アガベを収穫したら、まず地面に掘った穴の中に数日間埋めながらいぶし焼きし、搾汁後は酵母を添加せず自然発酵。銅製や粘土製の素朴な蒸留器で蒸留されるが、その技術も熟練の職人の経験に頼るところが多く、その原始的な製法は、まさにクラフト中のクラフトと言えるだろう。そして、複雑で豊かな味わいをもたらしながらも、蒸留酒ゆえに糖質はゼロ、プリン体はゼロ、さらに二日酔いにもなりにくいとされる「ヘルシーさ」を併せもつ。

日本初、沖縄でテキーラの原料となるブルーアガベの栽培に成功

アガベには200種以上の品種があると前述したが、その中で唯一テキーラの原料となる「ブルーアガベ」は、これまで、日本の気候条件では“生育不可能”とされていた。だが、そのブルーアガベ畑が、初めて沖縄に誕生したのだ。偉業を成し遂げたのは、沖縄・金武町にある植物会社「GREEN FIELD OKINAWA」。代表の伊藝順揮氏が、数年前にメキシコ・テキーラ村を訪れて目にしたブルーアガベ畑の美しさに感動し「沖縄にも作りたい!」と1,200株を輸入。これまで培った植物の経験と技術で、不可能を可能にした。

畑を作った最初の動機は「ただカッコイイから」というシンプルなもの。だが、今後5~6年かけてアガベが順調に成熟すれば、沖縄産のアガベシロップやアガベスピリッツを生産することもできるようになるので、夢は広がる一方だ。

アガベを見ながらアガベ酒を飲める!沖縄で第1回「アガベサミット」が開催!

来る10月22日、その日本初のアガベ畑「GREEN FIELD OKINAWA」にて「アガベを感じて、楽しもう」をテーマにアガベ&アガベスピリッツのイベント『アガベサミット2022』が初開催される。

イベントでは、日本メスカル協会の会長・フェリー・カデム氏をゲストに迎えてメスカルカクテルの提供やテイスティングセミナー、トークセッションを実施するほか、「Asia Best Bar50」で5位にランクインする〈BAR BENFIDDICH〉の鹿山博康氏、沖縄でミクソロジーの文化を啓蒙する〈BAR アルケミスト〉の中村智明氏らトップクラスのバーテンダー3名によるアガベスピリッツカクテルの提供も。沖縄で人気のBEAN TO BARチョコレートショップ〈TIMELESS CHOCOLATE〉とコラボしたイベント限定の「メスカルボンボン」も数量限定で販売される。

さらにタコスや山羊汁などのフード、メキシコのマリアッチによる演奏や沖縄のエイサーの演舞もあり、アガベとともにメキシコと沖縄の芸能・飲食文化も楽しめるイベント。ぜひチェックして「アガベを見ながらアガベで酔いしれる」というロマンを体感してみては?

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