アラブ首長国連邦の首都、アブダビを訪ねて
アラビア、メソポタミア、インダス文明に始まる、東アフリカの人々とアブダビを結ぶ交易は、5000年にも及ぶ。アラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビは、その多様な歴史と文化に裏付けられた伝統を誇りにしている。この文化遺産を護り、周知するという命題は国の歴史とともにあった。1971年、初代大統領である故シェイク・ザイードによりアル・アイン博物館が造られた。1981年には文化財団を設立し、文化基盤を固めた。彼の遺志は現在もアブダビに根付いていて、ビジョナリー的リーダーたちの助言のもと、サディヤット文化地区は進化し続けている。
世界的にもユニークな文化地区のひとつ
アブダビにはいくつかの自然島があるが、サディヤット島もそのひとつ。現代的でコスモポリタンな雰囲気に包まれた市街地から、車でわずか数分走れば、黄金色のビーチや、ラグジュアリーホテル、レジャー施設などに囲まれたこの島に渡れる。
世界的に有名なルーヴル・アブダビ、活気あふれるマナラット・アル・サディヤット文化センター、音楽と舞台芸術のバークリー音楽院アブダビを含む3つの文化施設がある。また、ザイード国立博物館、グッゲンハイム・アブダビ、アブダビ自然史博物館、チームラボ・フェノメナ・アブダビを含む4つの世界トップクラスの博物館や体験施設が間もなくオープンする。
サディヤット文化地区はこれらが一体となり、多様で革新的なナラティブを形成し、来訪者にとっても非常にユニークな目的地となっている。
世界の歴史と集合文化を体験できる場所としてデザインされているが、その多様な文化やコミュニティ間の障壁は感じられない。むしろ、グローバルセンターとしての役割を果たしながら、世界に向けてインパクトを放つ。
アブダビ文化観光局長のムハンマド・ハリーファ・アル・ムバラク閣下は次のように語っている。「文化的多様性のメッセージを発信するこの地区は、時の経過とともに世界とのつながりをさらに強固なものにします。文化交流を刺激し、地域やグローバル・サウス、そして世界を支える新しい考え方を育んでいくことでしょう。サディヤット文化地区は、人々が歴史から学び、現代社会をより深く理解し、未来に目を向けるために訪れる場所なのです」。
サディヤット地区に集結する7つの文化施設を紹介
ルーヴル・アブダビ
2017年に開館したルーヴル・アブダビは、アラブ地域初のユニバーサル美術館として、これまでに500万人以上の来館者を迎えている。異なる文化圏の美術品を網羅的に並べて展示することで文明や地理、時代を超越した人間の創造性を物語ったり、コレクションと公開プログラムを通じて文化のつながりを語ることで、世界の美術史に対する新たな視点を生み出している。文化間の相互理解を深めるような教育・研究プログラムもあり、その革新的なアプローチは、次世代を刺激するキュレーションとしても秀逸なのだ。ジャン・ヌーヴェル設計の6,400平方メートルの広さを誇る美術館は、180メートルの巨大ドームを有する象徴的な建築物であり、人々を結びつけるユニークな社交空間となっている。
ザイード国立博物館
UAEの創設者で初代大統領シェイク・ザイード・ビン・スルターン・アル・ナヒヤーンの名を有するザイード国立博物館。ここがUAE内の国立博物館を束ねるなど、ドバイ首長国の中心的な機関となる予定だ。UAEはもとより、南地中海や北アフリカ、ヨーロッパ、インド、中国など広域の、古代から現代にわたる幅広い時代の美術品や工芸品を2,500点以上、収集し保管している。それはつまり、周辺地域との交流や相互作用、影響を物語る材料となっているのだ。来館者は先史時代から現代までのUAEの風景、歴史、言語、文化などを網羅的に目の当たりにしつつ、国の成り立ちや経済や社会の変遷に至るまで、つぶさに学ぶことができる。
44,000平方メートルの床面積を誇る博物館は、フォスター・アンド・パートナーズ社が設計。ユニークな構造は飛翔するはやぶさの翼を思わせるもので、その各翼にはギャラリーが設けられ、そのひとつシェイク・ザイードの生涯と業績を展示する専用ギャラリーとなっている。博物館を囲む庭園も、彼の自然を愛する心へのオマージュであり、屋外スペースとして展示やイベントを開催する場となる。
グッゲンハイム・アブダビ
1960年代以降の西アジア、南アジア、北アフリカを含む、100カ国以上から集められた650点以上を常設展示し、地域、国内、国際的な創造的インスピレーションの源となる芸術作品たちがこの場で融合する。それは、現代の重要な芸術的功績を紹介することであり、現代美術と文化の卓越したプラットフォームを示してくれる。
プリツカー賞受賞建築家であるフランク・ゲーリーによって設計された80,000平方メートルの美術館は、一連の非対称な円錐形を特徴としている。伝統的な風塔の概念から着想を得ることで、屋根付きの中庭は自然冷却や自然換気の機能を持ち、サステイナビリティの要素を取り入れた建築物となっている。
アブダビ自然史博物館
アブダビ自然史博物館の来館者は、銀河と地球を巡る138億年の歴史の旅へと誘われる。巨大なティラノサウルス・レックスの骨格化石や70億年前のマーチソン隕石の標本、アブダビで発見された700万年前の化石などを見ることができる。博物館であると同時に、動物学、古生物学、海洋生物学、分子生物学、地球科学の知見を深める革新的な研究・教育機関が併設されていて、つまりは持続可能な未来について問いかける場でもあるのだ。オランダの建築事務所のメカヌーが設計した35,000平方メートルの博物館は、造園された敷地に囲まれていて、そのユニークな構造はこの地域で見られる自然の岩の幾何学的な形に似ている。
チームラボ・フェノメナ・アブダビ
猪子寿之が率いるウルトラテクノロジスト集団チームラボが、ここアブダビのサディヤット文化地区にも進出。チームラボ・フェノメナ・アブダビは、「無限の好奇心」を刺激するインタラクティブなアート・インスタレーションを体験できる没入型の施設となる。設計はチームラボアーキテクツ。パビリオンのテーマとして掲げた「環境現象」が屋内外で感じられる造りとなっていて、周囲の自然環境と一体化して、初めて作品として完成を見るという。総床面積は17,000平方メートルに及ぶメガプロジェクトで、まったく新しい作品群を展示する。
マナラット・アル・サディヤット文化センター
地域住民と訪問者を結びつける文化イベントや展示会のために設計された15,400平方メートルのスペース。写真やアートスタジオ、3つの仮設展示ギャラリー、劇場スペースオーディトリアム、カフェ、屋外イベントテラスを備えている。毎年、国際的なアートフェア「アブダビ・アート」や、ユネスコやGoogleなど世界中の著名なアート、テクノロジー、メディア関連の組織が参加する「カルチャーサミット・アブダビ」が行われる。知識の交換、討論、政策開発のためのグローバルフォーラムとして広く活用されている。
バークリー音楽院アブダビ
2020年に設立されたバークリー音楽院アブダビは、現代音楽と舞台美術分野で世界屈指の教育機関として知られる、米・バークリー音楽大学の中東における分校。中東や北アフリカ、南アジアから、若くて音楽的才能溢れる学生たちを受け入れ、パフォーマンス・アーティスティ・アンド・リーダーシップ(PEARL)プログラムを通じてワールドクラスの音楽家を育成する。また、若いアーティストに国際的な音楽業界のリーダーと交流する機会を提供している。設計はフォスター+パートナーズ社によるもので、パフォーマンススペースやリハーサルスタジオ、ワールドクラスのレコーディングスタジオや、技術研究所を備える。