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〈AURALEE〉岩井良太に聞く、ブランドのこれまでとこれから

上質なオリジナルファブリックを用いた、ベーシックかつ洗練されたもの作りを手がける〈AURALEE〉。2015年のデビューから程なくして人気を博し、今や国内外のさまざまなショップで取り扱われる、日本を代表するブランドだ。大学を卒業した後に上京し、パタンナーとして経験を積んだデザイナーの岩井良太さんに、ブランドのこれまでとこれからについて話を聞いた。

photo: Yasuyuki Takaki

着る人の個性を引き出すベーシックな服作り

「来年でブランドを始めて10年になりますが、一歩一歩ゆっくりと進んできた、という感触です。ブランドを立ち上げた当時は、強い男性像のファッションブランドが多く、柔らかくて謙虚な洋服が欲しい、と思ったのがきっかけです。どこの服なのかわからない、匿名性のある穏やかな服を、ハイクオリティな素材で作りたいと。〈AURALEE〉のイメージは“朝が似合う服”なんです」

〈AURALEE〉の強みである上質な素材の中でも、ニットや布帛(ふはく)類のアイテムへはオタク的なこだわりと自信が見て取れる。例えば、岩井さん本人も好きだと語るカシミヤを調達するために生産地であるモンゴルに自ら足を運び、遊牧民族と交流をするほど。そうして作られるニットやカーディガンは、ブランドの代表作として毎シーズン人気を呼んでいる。

世界観を打ち出すべく、パリコレクションへの挑戦

ブランドの転機となったのは、19年秋冬コレクション。ファッションの本場、パリコレクションへの挑戦だ。この挑戦にはどのような意図があったのか。

「取引先も増え、17年に東京・青山に旗艦店をオープンしました。自分の店を持つことが昔からの目標でもあったので、一つの達成感があって。それと同時に、これまでは“いいもの”を作ることに邁進してきたけれど、これからは“ブランドの世界観を伝える”必要があると感じました。今まで打ち出してこなかったシーズンのテーマを掲げたコレクションを発表することで、僕が考えていること、感じていることを視覚化できると言いますか。

最初の頃は“〈AURALEE〉の服のニュアンスは伝わりづらい”とも感じていて、正直不安もありました。ランウェイショーというもの自体、やったことがなかったので(笑)。けれど、モデルに服を着せて歩いてもらうことも、自分のインスピレーションになっていきました。人が着た時の服の落ち感や素材のなびき方など、服作りのアプローチが広がった。自分的には22年秋冬のコレクションで、やっと少し感覚を掴めたと感じました」

そして今シーズンは「着る人のクセ、気まぐれ、習慣や好みがテーマに。シワになったままのシャツやニット、裏返して着られるトレンチコート、個性的なレイヤードスタイルなどが見られ、〈AURALEE〉は着る人の個性を際立たせる服であることを強調している。

〈AURALEE〉のリバーシブルコート
表はエジプトの超長綿を、裏地にシルクを使用した、リバーシブルコート。生地を何度も叩き揉み洗いする加工によって、ハリ感と柔らかさを両立させた。

「街で見かけた、普通の服を着ているのに個性的な人や、自分だけの着こなしを楽しんでいる人が着想源です。袖まくり一つで見え方が変わるし、シワの入り方すら個性になる。〈AURALEE〉の服は当たり前の日常に寄り添うものだと考えているので、テーマも日常の中から見つけています。映像や風景の中において、どのように服が見えるか、ということを、コレクションを発表するようになってより意識するようになりました」

ベーシックな服が多い〈AURALEE〉における定番とは?

「実は毎シーズン作っている定番は、意外と少ないんです。Tシャツ、ニット、コートとほか数型くらいで。似ているアイテムでも、シーズンごとに素材やディテールを替えたりして、その時のムードでチューニングします。僕の好きなアーティストの李禹煥(リー・ウーファン)の詩にあるように、同じような日々を繰り返していても、実は毎日違う日常が訪れている。ドラマティックでなくてもいい、謙虚で穏やかな服を、これからも作り続けていきたいです」

〈AURALEE〉デザイナー・岩井良太
2024年の1月に移転したばかりの新しいプレスルームにて。岩井さんが着用しているのは、「夏でもカシミヤを着たくて作った」というニットカーディガン。ファッションに目覚めた中学生の頃から好きなものは変わらない。