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〈マルミヤ亭〉〈地球屋〉〈喫茶マドラグ〉味も心意気も継承した店主が営む京都の3軒

BRUTUS編集部が徹底取材を行い、見つけた、京都のグルメスポットを紹介。

Photo: Kunihiro Fukumori / Text: Shiho Yoshida

マルミヤ亭(東九条)

継承、そして復活。
新たなファンを増やす下町の味。

かつてはバラック小屋の街並みが広がっていたという東九条。京都の最深スポットと言っても過言ではないエリアで半世紀の間、蒸し豚と豚足の専門店として、京都の在日韓国人らから愛されてきた〈マルミヤ亭〉。

3代目として店を継ぐ岩本俊一さんも、ここの味に魅了されて通っていた常連の一人だった。「蒸し豚は韓国の祭祀には欠かせない料理。京都にはほかにも有名な店がありますが、僕の一番はここ」。代々、家族で営んできた老舗。

木屋町で酒場を営む岩本さんとは何の血縁関係もないが、後継者がおらず閉店するという話を耳にし、大好きな味を残すために名乗りを上げたのだ。

店主の岩本さん
店主として客を出迎える岩本さん。「ここの豚足が大好き。冷めてもおいしいです」

引き継ぎまでの1年間は初代の娘さんである2代目につきっきりで修業。といっても、その工程は驚くほどシンプルだった。調味料と塩を加えた水で炊くだけ(名は蒸し豚だが、蒸すのではないそう)。

それだけに素材選びと丁寧な下処理は欠かせない。豚は地元・京都産を中心に厳選。しっかりとした火入れで旨味を引き出した色白の肉からは、臭みは全く感じられない。

またこれまでは物販だけだったが、代替わりを機に店内を拡張。30年前まで提供されていた豚ホルモンの焼肉を復活させたのだ。知る人ぞ知る名店の継承は街でも噂となり、これまでは少数派だった若いゲストが急増。

明るい時間から七輪を囲める話題のスポットになっている。下町の食文化を残したい、という願いから始まった挑戦。その思いと味は、ビジターにも深く響くはず。

継承した羽釜
おいしさの秘密は調理に使う、この羽釜。これも継承したものの一つ。
〈マルミヤ亭〉店内メニュー
焼肉は豚ホルモンのみ。肉=牛の京都では珍しい。

地球屋(四条河原町)

学生御用達の名物酒場が、
オーディションを経て代替わり⁉

学生の町・京都には、学生のための酒場がある。その筆頭が1975年創業の〈地球屋〉だ。表現者が集った京都カルチャーの発信地。学生時代、先輩に連れられてきた思い出を持つ京都人は少なくない。

昨年春、〈地球屋〉閉店の知らせが街を駆け巡った。瞬く間に話題となり、当代が4代目を公募。30組の志願者の中から選ばれたのが、自身も「この店の影響を強く受けた一人」と話す元バイトで飲食店経営者の菊岡信義さんだった。とはいえ変わった点はほぼなく、壁を覆うポスターや写真のホコリも含む(⁉)すべてを丸っと継承。

地球屋皿うどん¥660
ソフトな麺と和中テイストのあんによる地球屋皿うどん¥660。

「僕は中継ぎ。次の世代にバトンを渡すのが役目です」。店の名物の巨大皿うどんや、大瓶を割り箸で開ける栓抜き芸も継承。新スタッフが目下練習中だそうで、店内に響くポンッという快音を再び聞く日も遠くなさそうだ。晴れてリブートした学生酒場を体験せずに、京都の酒場は語れない。

喫茶マドラグ(烏丸御池)

常連の思い出も一緒に。
喫茶店を愛する男の継承。

「お店はゼロからやった方が絶対に楽!喫茶店の継承は“本気の趣味”だからできるんです」と店主の山㟢三四郎裕宗さんは笑う。前身は1963(昭和38)年創業の純喫茶〈セブン〉。山㟢さんは以前、町家再生を手がけるカフェの支配人をしており、後継者を探す関係者からの依頼がきっかけだった。

オーナーは既に他界。引き継ぎは常連の記憶を頼りに、特濃のコーヒーを再現するところから始まった。「常連さんの味の記憶を超えていかないと認められない。それが大変でした」。マドラグ名物の玉子サンドも四条木屋町にあった洋食屋〈コロナ〉から譲り受けたもの。什器に関しても、閉店した純喫茶のお下がりを活用している。

再生請負人。依頼は絶えないが、本質を伝えるためにも継承は自分が実際に通っていた店だけ、と決めている。「素敵な空間や料理があったことを伝えたい」。今年で継承から10年。記憶は継がれる。

〈セブン〉の什器
味も心意気も継承した店主が営む店へ。
カフェの要素も取り入れたインテリア
インテリアにはカフェの要素も取り入れた。