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サントラで語る。荒木重光×クニモンド瀧口×有坂塁

観るものの感情を左右したり、登場人物の心情を代弁したり、映画自体のムードを規定したり。映画において音楽が果たす役割は、実に多彩だ。それゆえ、「映画音楽とは?」というお題に対する回答も、人によってさまざま。映画と音楽をこよなく愛する、この3人の答えは?

photo: Shin-ichi Yokoyama / text: Tomonari Cotani

登場人物の気持ちを
代弁する歌詞

荒木重光

今日は2013年に日本で公開された映画の音楽について話そうかと思います。

クニモンド瀧口

えっ、荒木さんは80年代映画音楽のお話(*1)かと思ってましたよ!

荒木

3.11以降、ということでもないんだけど、最近はあらかじめ何かを失っている人たちが描かれた映画が、特に気になるんです。

例えば両脚を失った女性の再生を描いた『君と歩く世界』(*2)とか崩壊した家族の群像劇『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』(*3)とか。まず『君と歩く世界』は、邦題があまりにもまぶしすぎて(笑)、公開時にはスルーしたんです。

でも、マリオン・コティヤールが単なるベタベタな恋愛映画に出るわけないな、と思い直して観てみたら、いきなりボン・イヴェール(*4)の曲が流れてきたので、「来たな!」と思いましたね。

瀧口

おー、ボン・イヴェールとはいいセンス!

荒木

エンディングでも「The Wolves(Act Ⅰ&Ⅱ)」という曲を使っていたので、「ジャック・オーディアールは、ボン・イヴェールを映画に使った最初の監督だ!」と思ったのですが、その少し後に観た『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』でも、なんとエンディングで「The Wolves(Act Ⅰ&Ⅱ)」が流れてきたんです!

有坂塁

すごい符合ですね。時代感でしょうか……。

荒木

監督はお互い、「やられた!」と思ったはずですよ。でも、符合はそれだけじゃないんです。

『君と歩く世界』の中で、脚を失い職も失ったコティヤールは、ストリートファイトで金を稼いでいるろくでなしの彼氏のマネージャーになるのですが、試合のシーンで、今度はブルース・スプリングスティーン(*5)の「State Trooper」が流れるんです。

この曲は、『THE RIVER』と『Born in the U.S.A.』という、超ヒットした2枚のアルバムの間に出された、『NEBRASKA』という極私的な宅録アルバムに収録されているのですが、実はボン・イヴェールのファーストも、3ヵ月間森にこもって録音された、非常に内省的なアルバムなんです。

きっと音楽的背景も含めて、とてつもなく深い孤独に主人公たちが向き合った時、その心象を表す演出として、この2組のアーティストの曲が選ばれたんだと思います。

有坂

いきなり深すぎる洞察!この後話しづらいですよ(笑)。

荒木

あはは。実はまだあって、『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』でも、何とスプリングスティーンが流れるんです!

サーカスのバイク乗りだったライアン・ゴズリングが犯罪に手を染めて最初の銀行強盗に成功した後に流れるのが、「Dancing In The Dark」という曲なんです。
現状を打破するために行動を起こそうとモヤモヤしている男の歌なので、ニヤッとしました。

瀧口

歌詞で登場人物の気持ちを代弁したり状況を匂わせるのは、映画における音楽の使い方としてとてもスマートですよね。


ARAKI'S POINT
思いがけない符合の発見から本質が見える。

赤兎馬 赤 

カクテルと器、語りたくなる〈赤兎馬〉とのペアリング

飲む / PR

映画に流れる一曲で
人生が変わることも⁉

有坂

僕は荒木さんみたいに深い洞察はできないので、いまの自分につながっている一曲の話をしたいと思います。

アキ・カウリスマキ(*6)の『浮き雲』(*7)の冒頭にかかる、「Lonesome Traveler」というジャズナンバーです。

瀧口

あの冒頭のシーンは、すごくいいですよね。

有坂

はい!それがきっかけで、カウリスマキにどっぷりはまったんです。

カウリスマキって、タンゴとか民謡とか昔のロックとか、ジャンルレスで音楽を使うので、すごく勉強になるんです。

その後キノ・イグルー(*8)を始める時、誰かに自分の活動名の名づけ親になってもらおうと思って、思い切ってカウリスマキに手紙を書いたんです。
彼はもともとシネマクラブを主宰していた映画マニアで、そのクラブの名前が、キノ・イグルーだったんです。

「東京で本気でやろうと思っているなら、大事にしている名前があるけど、使うかい?」と言って、キノ・イグルーの名を授けてくれました。それがすべて、『浮き雲』の最初のシーンに対する感動から始まっているんだなと思うと、時々不思議な気分になります。

荒木

それこそ、映画みたいな話ですね……。

有坂

本当に一曲で、人生が変わったと言っても過言ではないかもしれません!

瀧口

マニアックなお話と私的ないいお話の後なので、僕は、「スコア(映画音楽)で聴く」というスタンダードな映画と音楽の話をしたいと思います(笑)。

僕は、親が映画好きということもあって、小さい頃からテレビのロードショーでたくさん映画を目にしてきました。
だから知らず知らずのうちに、映画音楽がインプットされていたらしく、いま自分で音楽を作る際も「弦のアレンジは『小さな恋のメロディ』(*9)のリチャード・ヒューソン(*10)のエレガンスさで」みたいな判断をするんです。

曲によっては一曲の中にストーリーを持たせたりもしますしね。スコアというのはある意味不完全で、映像とセットで成り立つものですが、目を閉じても聴く人の想像力を膨らませられるのがいい映画音楽だと思うんです。

荒木

最近はタイアップも多いし、なかなかいいスコアが出てくることも少なくなりましたね。

瀧口

その通りです。楽曲単体で完成されている方が、リスナーにもわかりやすいという点もあるのでしょうね。

ガブリエル・ヤレドが手がけた『ベティ・ブルー』(*11)のように、スコアともサントラとも呼べる稀有な作品は、最近めっきり見かけなくなりました。
だから、というわけではないのですが、僕もいつか、想像力のトリガーになるような映画音楽を作ってみたいですね。

TAKIGUCHI'S POINT:映画音楽は、スコアこそが至高。

ARISAKA'S POINT:アタマから離れない一曲が眠るサントラたち。