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建築家/起業家・秋吉浩気が、それでもニュースを購読する理由

「自分が興味のあるトピックを、より深掘りしていくための手段として、新聞メディアを活用しています」。そう話すのは、建築家で起業家の秋吉浩気さん。誰もが無料でたやすく、たくさんの情報を手に入れられる今の時代、あえて新聞のニュースを購読する価値はどんなところにあるのか。彼の新聞との付き合い方を通して、明らかにしていく。連載第1回・哲学研究者の永井玲衣さんへのインタビュー記事はこちら

photo: Satoshi Nagare / text: Emi Fukushima

レガシー産業の中で鍵を握る、新聞メディア

“建築の民主化”を掲げ、デジタルファブリケーションを駆使して誰でも自ら理想の建築をつくることができるプラットフォーム構築を進めるVUILD代表の秋吉浩気さん。

例えば2019年には、富山県五箇山地区の集落に高性能な3D切削機「ShopBot」を導入し、地元の木材を用いてパーツを出力し組み立てることで「まれびとの家」を竣工。伝統的な合掌造りの製作を地域内で完結させ、建材の長距離輸送や時間やコスト等を削減する革新的な試みとして建設業界の内外に大きなインパクトを与えた。さらに22年には、Web上で自分好みの家を設計し、見積もり、注文までを完結できるサービス「NESTING」も開始。誰もが「設計者」になれる未来に向けて、着実に実績を積み重ねている。

長い歴史を持ち、すでに巨大で成熟した市場を持つ“レガシー産業”の一角に身を置きながら、常識を打ち砕くさまざまなアイデアを繰り出していくためには、業界の慣習に沿った情報収集も欠かせない。彼が最初に新聞メディアに触れるようになったのはそんな背景からだった。

VUILD代表 秋吉浩気
秋吉さんがVUILDを立ち上げたのは2017年のこと。その時期から、新聞メディアにも定期的に触れるようになったのだそう。

「建設業や木材業では、情報収集はもっぱら新聞メディアが定番です。一緒に仕事をする工務店や製材所の社長さんなどは、だいたい業界紙と日本経済新聞は必ず読んでいるんですよね。僕が最初に新聞に目を通すようになったのも、その記事が彼らとのコミュニケーションの土台になるだけでなく、顧客となる彼らの思考を深く理解できるからです。VUILDの取り組みを紹介してくれたメディアの中でも、業界内の反響が大きいのはやっぱり新聞でした」

秋吉さんが日頃購読しているのは、日経電子版やそれに付随して日経ビジネスや日経アーキテクチュアなどの専門メディア、そして業界紙などの数紙だ。

とはいえ、「なんらかのメディアを網羅的に見る習慣はなく、信頼のおける確かな情報の中から興味があるものだけを選び取って深掘りしていくスタイル」だという彼。全ての新聞を一面から順に眺めていくという方法ではなく、自分に関連する記事を見つけるきっかけとしてSNSを活用している。

横浜・本牧にあるVUILDの自社工場
横浜・本牧にあるVUILDの自社工場では、設計図のデジタルデータに基づき建材を巨大な3Dプリンターで加工。それらを組み合わせて建築を作っていく。

「特に参考にしているのは、スタートアップ企業を率いる経営者の方々のTwitterアカウントです。コメントよりは、リツイートなどで彼らがピックアップするニュースそのものを追いかけていて。建築とテクノロジーの領域を横断しながら仕事をしている以上、木材価格の高騰からAI技術の動向、資金調達や脱炭素などまでと、関心を寄せる領域が幅広いので、ビジネス文脈の方々の、ジャンルに捉われることなく経済や社会の動向を注視される姿勢が、興味のあるニュースを拾う助けになるんですよね。

そして彼らがピックアップする記事って日経関連のものが多い。ゆえに購読を続けています」

情報に溢れた時代に、いかに確かな“一次情報”を手にするか

時事性の高いリアルタイムの情報であれ、物事の本質を理解するための普遍的な知見であれ、秋吉さんがあらゆるインプットをする上で大切にしているのは、できるだけ一次情報に近い情報を得ること。その方法の一つとして最近よく手に取るのが古本だという。

「1960~70年代に出版されてすでに絶版になった建築書や経済書に面白いものが多くて、よくAmazonで購入して読んでいます。当時は、高度経済成長期が終焉し、2度のオイルショックに見舞われるなど経済的には大きな転換期。同時に建築分野においても、ある種集大成だった大阪万博が幕を閉じて次の時代に向かう境目で、経済、建築ともにユニークな指摘がなされていたり、新たなアイデアが活発に生まれていた時期でもあったんです」

当時と同様に大きな社会変革の時期を迎える今、一度は淘汰された50年以上前のアイデアを現代的に解釈した書物も散見される。しかし、秋吉さんがこだわるのはあくまで一次情報である、発刊された本そのものを読むこと。「元になった言説の方が、思考も深いし、表現もうまくて味わい深い。そして何より、本質に近い本物の情報に触れていたいという意識が強いんです」と話す。

コミュニケーションツール・Slackに記事のリンクを貼り付けている様子
記事の閲覧は基本的に新聞で行う。そして目に留まった記事のリンクは、社内のコミュニケーションツール・Slackに貼り付け、自分用にアーカイブしている。

そして、ブレない情報にアクセスをし、自分の中に情報を蓄積していくという点では、古書と新聞は同じ。

「新聞に載っている情報って、日々流れ去っていくフロー型というよりは時代ごとに蓄積されていくストック型。さらに主観は極力削ぎ落とされ、客観性の高い状態で提供される、限りなく一次情報に近いものだと理解しています。

ある経営者のインタビューひとつをとっても、プロの記者による綿密な取材と適切で分かりやすい言語化がなされていて、自分でインタビューをして得たのと限りなく近い生身の体験が得られるし、時代が変化しても読み返したくなるような普遍性を持っている。ゆえに日々の情報収集のみならず、現代社会を本質的に理解する上でも頼りにしていますね。

これだけ情報に溢れた今、確固たる指針を持っていなければ流されてしまうもの。そんな中で、主観や流行に左右されない確かな情報を提供してくれるのが新聞メディアだと思います」

得た情報は、アウトプットをして初めて身についていく

そしてもうひとつ、新たな建築、あるいはサービスとして、絶えずアウトプットを繰り返す秋吉さんが目を配るのは、新聞などを通じて得た一次情報をどう消化し、自分のものにしていくかということ。そのために行うのが、社内のスタッフに、社内SNSを使ったり、定例会議の場を通じたりして、気になったニュースを自らのコメントを添えてシェアすることだという。

社内の打ち合わせの様子
興味深い記事などは、社内の打ち合わせの場で共有することも。自分なりのコメントを添えつつ、社員たちにもインプットを促す。

「データは最終的には出力しないと価値がないように、インプットも応用して次の行動に生かさなければ、本当の意味で血肉にはならないと思います。せっかく得た情報を実のあるものにするため、心がけているのはまずは身近なところでアウトプットすること。例えば文章にしてまとめたり、誰かに向けて自分の言葉で話したりするのもひとつの方法です。

例えば『Web3』について、記事を読むだけでは理解した気になっていても、自分なりに論じようとして初めてそもそも分かっていないことに気づき、実際にサービスを使ってみることで本質を理解することができました。あるいは、社員の前で、『こんな記事があって、ここが面白かった、僕らの会社だったらこういうことで活かせるよ』というところまで言語化すると、初めて思考が整理されることもある。自分の言葉で語れるようになることが、情報を咀嚼し、応用していくための第一歩として重要だなと感じています」

情報は生かしてこそ価値があるもの。ならば量を追求したやみくもなインプットは意味をなさない。秋吉さんはこう続ける。

「当たり前ですが、食事においても、自分の血となり肉となるものならば、どうせなら栄養価値が高く、美味しいものを食べて、元気な体を作りたいですよね。

情報においてもそれは同様。ゆえに選んでいるのが、新聞メディアであり、日経電子版です。自分の感性に響く確かな情報を厳選してしっかり読んで、しっかり考えて、しっかり行動に生かしていく。それを着実に続けることが、新しいアイデアを生み出すための武器になっていくと思います」