キニマンス塚本ニキ(左)、荻上チキ(右)
荻上チキ
ニキさん、早いときは18時くらいに(TBSラジオに)入ってるじゃないですか。すごく準備する方だなあと驚いたんです。
キニマンス塚本ニキ
あははは!
荻上
僕は20時に来て資料を読んだりしましたが、ほかにも仮眠をとったりご飯を食べたりして。でも考えてみると、パートナーの南部(広美)さんがいるので分担ができるんですよね。ニキさんは2人分を1人でやってるんでしょう。
塚本
いまだにつたなくて恐縮です。
荻上
すごいことですよ。スタートから4ヵ月、振り返ってどうです?
塚本
第1回のテーマが「VUCAの世界を生き抜くために」だったんです(*VUCA…Volatility=変動性、不安定さ、Uncertainty=不確実性、不確定さ、Complexity=複雑性、Ambiguity=曖昧性、不確実性、から頭文字を取った“不安定で予測不能な状況”を意味する言葉)。
コロナ禍の今こそやるべき!と考えたんですけど重圧もあって、漠然としたものをお届けしてしまい……。
荻上
“降りていく”みたいな作業が必要になりますよね。パーソナリティが知識を持ちすぎていたり、熱量がありすぎる状態だと、リスナーの関心とのギャップがありすぎて押し付けがましく聞こえてしまうから。
リスナーの期待に応えて、次のアクションに繋げる。
塚本
難しいですねえ。チキさんはラジオの仕事を始めたとき、番組とどう向き合っていましたか?
荻上
僕もテーマを自分で決めて、徹底的に調べていました。レジュメも自分で切っていました。
塚本
というのは、意図しない方向に話が進むのが嫌だったとか?
荻上
そうなんです。でも、当時のプロデューサーに「本を書く作業とは違うからね」と言われたんですね。ラジオは決めた通りになんて進まない。会話の中でコミュニケーションしていくものだと。そう教えられて、あらかじめ着地点を決める以外の方法を考えるようになりました。
塚本
予定調和ばかりではダメだけど、筋の通った説明はちゃんとしないといけない。私は当初ガチガチに緊張して台本を一字一句読んでたんですけど、これじゃなんで私が選ばれたのかわからないじゃないか!と思って、少しずつ自分の言葉を増やせるようになってきました。
荻上
やっていくうちに“尺感”が身についていきますよね。友達との会話ならずばり本題から聞くけど、ラジオの場合、5分で答えが出てしまったら番組にならない。
ゲストがどういう研究分野の方で、どんな知識を持っているか聞いて、メールを絡めてお話ししたあとで見解を尋ねていく。まずはスモールステップを積み重ねる時間が必要ですよね。
塚本
チキさんは番組をやるうえでどんなことに注意していますか?
荻上
会的な役割について考えますね。まずは議題を引き取り、こういう意見があるよと繋げていく。すると、日々様々なニュースが発生したときに「きっとSessionが触れてくれるだろう」という期待が生まれる。
それを受けて、リスナーの方々が放送を聴いたあとで次なるアクションに繋がるものを残したいなと。
塚本
リスナーとの信頼関係ですよね。私は、政治やフェミニズムといった「重くて堅苦しい」と取られかねないテーマを、「プラスサイズモデルっていう職業があるんだよ」とか「ゲイをカミングアウトした牧師さんがいるんだよ」というような人間性があるストーリーを通して提供することで、これからの社会や個人の生き方を考えるヒントになればいいなと思っています。
荻上
僕は評論家で書き手だから、社会議論を整理するとこんなふうにわかりやすくなりますよ、この事象は変えることができますよ、と社会応答的に話をします。
一方ニキさんは人の言葉を届ける通訳をされていますから、問題を構造的に把握するというよりは、ゲストの視座を確認することに力を入れていますよね。
塚本
まだ、補助輪を付けてヨタヨタ、という感じです(笑)。
解像度を上げれば社会の実情が見えてくる。
荻上
ニキさんの関心ある分野に興味を持つ人は多いと思います。ラジオを始めて、メディアや社会の見方が変わったことはありますか?
塚本
そうですね、20代の頃は大手メディアや企業、政治家を批判することが、社会を考えることだと思っていたかもしれません。汚い言葉ですけど、“マスゴミ”と言ったりも。
荻上
特定のジャンルへの土地勘がないと、物事の解像度は粗くなりますよね。人が処理できる情報は限られていて、複雑な世界に耐えられないが、そのことで未知に対する不安を味わうことにも耐えがたい。
そこであえて土地勘を働かせず周囲の解像度を低くして、取るに足らないものだとすることで優位にも立てます。
塚本
なるほど。
荻上
解像度を上げてつぶさに社会を見れば、より大変な実情が見えてくる。現実と距離をとるために「あいつらはゴミ、だから自分はOK」と雑にくくって敵を作る。その思考は陰謀論とすごく相性が良い。
塚本
うんうん、本当にそうですね。
荻上
自分に自信がないとき、周りを下げれば活躍できる。陰謀論はむしろ世直しをしたい、パッションのある人に届きやすいんです。
塚本
私もそう思います。でも、パンクでアナーキー気取りだった私でも、いざマスコミュニケーションの中に入ってみると、真摯に良いものを作りたいと思ってる人がいるとわかった。個々の思いが組織にかき消されるジレンマも理解した。
荻上
社内の人もいろいろですからねえ。僕はニキさんに「海外で今こんな議論があります」とコラム形式で話してほしいですね。他分野の出来事を調べるには限界があるので。
塚本
言葉の壁や概念の違いで伝わりにくいことって色々ありますしね。いろんな世界を生きている人とお話しして伝えていきたい!
荻上
面白さドリブンでね。
塚本
いいネーミング!面白さが原動力じゃないと飽きちゃうもん。