時計は実用的でありながら装飾的。時間そのものの美を表現する
独創的な家具に日本刀、公衆トイレまで。斜め上を行く発想で驚かせてくれるデザイン界のスーパースター、マーク・ニューソンにとって、時計はキャリアの原点、かつ原体験。

叔父から譲り受けた〈タイメックス〉の回転ベゼルに興味を持ち、分解して作り直した幼少期から今や伝説の時計ブランド〈アイクポッド〉を共同設立した1990年代。そしてベルギーの〈レッセンス〉との新作ウォッチの発表を控える現在まで、「絶え間ない再発明の衝動」は続く。
だが意外なことに、彼自身の時計との付き合い方は、いわゆるコレクターのそれとは正反対で、少数精鋭を気ままにリピートするタイプ。時計は毎日着用する必需品ではなくアクセサリー。「アップルウォッチ」が欠かせない時期もあったが、最近は「ノスタルジックな気持ち」から過去の作品を手にする機会も増えた。
「特に思い入れが強いのは、99年製の『アイクポッド メガポッド』と、〈ジャガー・ルクルト〉の『メモボックス』。後者はクラシックなダイバーズウォッチですが、元〈アップル〉のジョナサン・アイヴと私が非営利団体〈(RED)〉のチャリティオークション用にカスタムし、世界に3本のみ。稀少価値が高く頻繁には着けませんが、特別な一本ですね」

一方で作り手としては、あくまで自分が欲しいもの、着用したいものにフォーカスし、ある意味公私混同なスタイルを貫く。
自身が所有するピースからも多大な影響を受けているそうで、90年代初頭、「自分でお金を稼ぎ始めた頃」にパリで手に入れた〈ブローバ〉の「アキュトロン・アストロノート」はその筆頭。NASAの宇宙飛行士の元公式ウォッチとして知られる同モデルの黒いベゼルが、後に「アイクポッド シースラッグ」の、剥き出しのベゼルの着想源となった。
「〈ジャガー・ルクルト〉の『アトモス561』は、時間の概念に興味を持つきっかけになりました。時計は機械的な装置であると同時にパフォーマティブで彫刻的、そして実用的でありながら装飾的でもある。とりわけ砂時計の魅力は時間の物理性、つまり過去と現在の間の揺らぎを目に見える形で示すことなのかなと」
マークが英・グロスターシャー州に所有するカントリーハウスは、そんな彼のタイムピースにまつわる哲学的な解釈を読み解くにはおあつらえ向きの場所だろう。愛用する4本の腕時計が並べられたのは、日本の東北地方で買った市松模様のチリトリ。
1920年代の佇まいを伝える暖炉のマントルピースの上には、美しく光を反射する明治期の七宝細工の花瓶と、1800年代のテーブルランプを対に。傍らには、サラサラと砂のようなチタン製ボールを落とす〈HG Timepiece〉の砂時計「The Hourglass」。時計を通して得る体験を「炎を眺める感覚に似ている」と譬(たと)える言葉ともリンクするようだ。


