昨年7月1日に発行の本誌「冒険者たち。」特集にも登場した登山家で作家の服部文祥さんの新刊、『本当の登山の話をしよう』が1月26日に刊行された。
登山界のみならず、カルチャー界でもその名が知られるきっかけになったのは、2006年に刊行された『サバイバル登山家』だった。服部さんが20年ほど実践してきた「サバイバル登山」とは、道具に極力頼らず、魚や山菜、獣などの食料を現地調達しながら長期山行を行うというもの。
一般のハイカーには到底真似できないが、自分の力(自力)を最大限に引き出し、命を露出させるようにして山と向き合うその姿はどこまでもフェアに感じられ、自然と人間の関係を考えるうえでの大きなヒントを与えてくれた。
現在、服部さんは関東近郊の里山にある廃村の古民家で自給自足に近い生活を送っている。本誌「冒険者たち。」特集ではスピンオフ企画としてその暮らしに密着した動画を公開したが、電気やガス、上下水道に頼らず、食べるものも極力自力で得るその生活は、まさに“暮らし版サバイバル登山”だ。
“サバイバル登山家”のインパクトが大きすぎるせいか、彼が20代の頃に世界第二の高峰・K2に登頂したアルピニストであることを知らない人も多いかもしれない。本書はヒマラヤの8000m峰登頂に憧れ、がむしゃらに高峰を目指した若き日から現在に至るまで、約30年の間に綴った文章が収録されている。
通底するのは「人はなぜ山に登るのか」という問い。自らの経験に加え、山野井泰史や星野道夫、フリチョフ・ナンセンなど自身が敬愛する人物の著書や生き様を通して、自然との向き合い方、生きることの本質に迫る。

読書家としても知られる服部さんだが、本書を読むとその読書姿勢から学ぶことも多々ある。人生の様々なタイミングで読み返す本の中で、服部さんはその度に著者と出会い直し、自然や生命とのかかわり方を再発見していく。
登山という行為や他の生物を殺して食べ、生きていくこと、環境にできるだけ負荷を与えずに暮らすこと、そこにある「意味」を愚直なほどに考え、探し求める。その姿は、文明社会の中で増加する様々なリスクに目をそむけ続ける私たちに、「思考せずに生きてはいないか?」と問いかけてくる。
