日々のルール作りで整理された本棚
「校正者」というと、うずたかく積まれた無数の本や辞書に囲まれて日々ゲラを読んでいるイメージだが、牟田都子さんの仕事場兼自宅はまるで違った。
リビングには、出版社勤務の夫と共用というメインの本棚がある。半分以上は夫の本で、牟田さんの本は棚の3分の1程度にすっきりと収められている。本を置くのはもう1ヵ所、階段上の廊下スペースだ。主にリトルプレスや未読本が並ぶ。読み終えた本は棚から抜いて、定期的にすべて古本屋へと持っていく。
牟田さんは、年間に20〜30冊程度の書籍や雑誌の校正を手がける。多い時には1冊の本の校正に必要な参考文献などの資料が100冊を超えることもあるという。加えて、個人的に興味がある本まで所有していたら、いくら広さがあっても足りない。
「本棚には、自分が担当した本と、本当に繰り返し見たり読んだりする本、現在進行中の仕事で読まなければならない本だけを収納しています。日々本は増えますが、読みきれない量を持っていても仕方がない。私はもともと図書館で働いていたので、たいていの本は手放してもまた手に入るということはわかっています。
地元の図書館になければ、相互貸借で他地域から取り寄せることもできますし。漫画と雑誌は探すのに困ることがありますが、最後の手段として国立国会図書館に行けばいい。漫画や雑誌など図書館で入手しにくいものは、オンラインの古本屋やフリマサービスを使うことも」
現在の本棚は、結婚して2人暮らしになった2016年頃に手に入れた。探したときのポイントは、壁一面正方形のグリッドが並ぶもの、余計な装飾がなくシンプルなデザインで、色は白。かつて牟田さんの何倍もの本を所有していた夫も、読了後の本は古本屋へというサイクルに慣れてきたという。
「読み終わった本、仕事で使って用が済んだ本は、古本屋行きの山へ。数十冊たまったら、近所にある行きつけの古本屋〈百年〉に持っていきます。もう10年以上のお付き合い。買い物に行くと、店内のそこかしこにうちの蔵書だった本を見かけます(笑)。本は読まれてこそ。循環させないと」
仕事や生活で影響を受けた、先人の本は大切に何度も読む
大量の本が手元にやってきては古本屋へと流れ、本棚に残る本の傾向は、ほぼ変わらない。一つは校正にまつわる本。校正者の著作や本づくりに関わるものだ。中でも、数少ない“校正エッセイ集”の『校正の散歩道』は心の支えにしてきた。

1949年に岩波書店に入社し校正課に配属され、61年に退社。その後は外部校正者として勤務しながら後進指導にあたった著者が、印刷所で活字を一字一字拾っていた時代の校正の仕事や、校正者とは何か、文章を校正するとはどういうことかなどについてを長年の経験からユーモアを交えて記した貴重な一冊。日本エディタースクール出版部/絶版。
「私と同じく出版社の外部校正者として働いてきた著者が、校正という職業について、何を考えどう仕事をしているか、親しみやすい文体で書いた一冊です。自分でも校正について本を書くことになった時に参考にしました。
また、普段の仕事は一期一会で同じ著者の本を何冊も読むことはほとんどないのですが、批評家・随筆家の若松英輔さんの本は30冊以上担当しています。それだけ文章を熟読してきたということは、私には若松さんの思考が染み込んでいる。『悲しみの秘義』は、一番最初に担当した本です」

「言葉にならないことで全身が満たされたとき人は、言葉との関係をもっとも深める」。人気批評家であり随筆家による新聞連載の書籍化。宮沢賢治、須賀敦子、神谷美恵子、リルケ、プラトン、小林秀雄、ユングらの、死者や悲しみ、孤独について書かれた文章を深く読み解き、人間の絶望と癒やしをそこに見出す25編。解説は俵万智。現行版は文春文庫/825円。
校正や出版の本以外では、工芸や暮らし回りの本、雑誌のバックナンバーが多く並んでいた。本棚に利用している木箱や家のあちこちにあるカゴ、シェーカーボックス、家具等、身の回りの日用品や道具は、選び抜いて、長年丁寧に使っている様子が見受けられる。『わたしの日用品』は、もともとモノへの愛着が強い牟田さんの選択眼を養い生活の土台を作った一冊だ。

主婦として家族が居心地のいい家とはどんなものかを考え続け、実践してきた、暮らし上手な筆者による日々の記録。愛用する日用品を紹介するとともに、モノ選びの考え方や視点、手入れしながら長く使うためのティップス、手作りの工夫やアイデアなど、すっきりと心地よく暮らしていくためのヒントが詰まっている。端正な文章も人気。アスペクト/絶版。
「若い頃から読んでいる、私の家作りや暮らしの先生。モノ選びに妥協のない姿勢や、生活の工夫は真似して実践したことが多い」
仕事柄、膨大な本に触れながらも本当に必要なものだけを残す。本の美しい収納技は、ぜひ見習いたい。




