些細な“出会いの奇跡”を、物語に残したい。寝食を忘れるほど没頭した、上野詩織の脚本を書き続けられる“才能”

ドラマ『初恋、ざらり』『彼女がそれも愛と呼ぶなら』の脚本を務め、直近では話題作『じゃあ、あんたが作ってみろよ』の制作にも携わった脚本家・上野詩織。監督デビュー作となる映画『生きているんだ友達なんだ』は、田舎町で無為に生きる主人公が過ごした、人生の中で一瞬の、退屈だけれど濃密な時間を、淡々と、しかし確かな筆致で描いている。「少し言葉を交わしただけだったり、同じ場に居合わせただけだったり。普通だったら記憶の彼方に消えてしまうような人との出会いも私は“奇跡”と呼びたいし、物語に残した」

photo: Masataka Kougo / text: Urara Konishi

この映画がいつか誰かにとって“奇跡”になるかも

もともとは、高校生の頃から翻訳家志望。会社員時代に副業で字幕制作など細々と請け負っていた。散歩中に見つけ、軽い気持ちで申し込んだシナリオ講座が人生を動かす。

「翻訳業では“今日は休みたいな”って瞬間があったけど、脚本は毎日書かないと物足りないし、ずっと楽しくて。取引先へ向かう電車でふと“この時間もシナリオ書きたい……”と衝動的に会社を辞めました。性に合ってたんだと思います」

脚本家として原作のある作品を担当することも多いが、物語がベースにある翻訳業とは「まったく別物」だという。

「翻訳作業は、あくまで言葉が主役。キャラクターの背景や文化の違いをいかに“言葉”で補うかが腕の見せどころ。一転、原作を脚本化するのは、キャラクターを立体的に肉づけしていく作業。自分と地続きの存在だと信じられるように、人物像を掘り下げていくのがすごく楽しいんです」

脚本家の上野詩織。

冒頭で語った“出会いの奇跡”を大切にする姿勢は、脚本にも息づいている。

「原作モノを書いている時に“これって(自分の感じた)あの時の瞬間と同じだ!”とこれまで温めていた“奇跡”とシーンが重なる時が、たまらなく嬉しくて。ドラマや映画は、あるタイミングでたまたま出会う偶然性の強いメディア。自分の作品がいつか誰かにとっても、ある種の奇跡を起こすかもしれないということを忘れずに仕事をしたいといつも思っています」

軽度の知的障害がある女性との恋愛やポリアモリーを題材としたドラマの脚本を担当してきた。ドラマ脚本と並行しつつ、今後は脚本家兼監督として「韓国映画『はちどり』のような、社会派な作品を人間ドラマとして描く、長編映画を撮りたい」と意欲を見せた。

『生きているんだ友達なんだ』
脚本・監督:上野詩織/出演:永瀬未留、アサヌマ理紗ほか/監督の実体験を基に、誰しもが経験のあるかけがえのない出会いと別れを描く。2026年3月27日、テアトル新宿ほか全国順次公開。

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