『ソル・ルウィット オープン・ストラクチャー』を通して見えるもの
「ルウィットについては、はじめミニマルアートの人であることとか、〈プリンテッド・マター〉というニューヨークの書店に関わった人だという認識くらいしかありませんでした。ミニマルアート自体、そんなに詳しくはないんですけど、学生の頃、スティーヴ・ライヒを聴いて、音楽を数学的に解釈するような考え方が気になった時期があって。あと、ベルギーのローザスというコンテンポラリーダンスの人たちを追っかけたりしていたこともありました」
ルウィットの作品制作において特徴的なのは、そのコンセプト自体が作品であるという考え方なので、指示書を作り、それに基づいて、展覧会場などの現場現場で、「ドラフトパーソン」と呼ばれる人たちに「ウォール・ドローイング」などの作品の制作を委ねることだ。実際、今回の展示でも多くの作品が日本で制作されている。
「指示書を作ったうえで、どこまで現場に委ねるか委ねないか、というところがかなり厳密に決まっている時点でシビアではあると思うんですが、人間の“ゆらぎ”みたいなものを許容しながら、自分の表現を目指している。そのゆらぎへの許容という点は興味深く感じました。また、僕たちデザインの仕事も、完全に一人でやることはあまりない。ライターさんや写真家、イラストレーターの方がいて印刷物になるので、印刷関係の方を含めて、チームでやっているという自覚はあります。ルウィットも、ある意味共同作業ですよね。そういう点での親近感も覚えました」
ルウィットの作品は、正方形や立方体を使ったものが多い。それが、ミニマルアートとも呼ばれる所以(ゆえん)なのだ。
「モチーフのニュートラルさから来ている形なんだろうなと思いました。それをルウィットは、“uninteresting(目を引かない)”と言っているようですが、特別なプロポーションではないということから導き出された結果が正方形や立方体なのかなと。必然からの形なのかなと思いました」
前半の展示室には、ウォールドローイングや立体・平面の比較的大きな作品が並ぶ。そして、後半の部屋には、ルウィットが力を入れたアーティストブックなどを中心とした書籍や印刷物が数多く展示されている。そこには、ルウィットが1976年にルーシー・リパードらと設立した、アーティストブックの流通や普及を目的とする〈プリンテッド・マター〉関連のものも含まれる。
「デザイナーは、基本的には受け身の仕事なので、そればかりやっていると、ちょっと鈍るところがある。だから自分の作品集は作らないまでも、一応自分の出版レーベルもあるので、そこでたまに自分もディレクターとして本を作ることはやっているんですね。今、『TOKYO ART BOOK FAIR』とか、アーティストブックやZINEのシーンが盛り上がっていますが、ルウィットはそういう意味でも、明らかに先駆者ですよね」
最後に、展覧会を振り返って、改めてルウィットのどのようなところに魅力を感じたか尋ねた。
「面白かったのは、ルウィットは、直感というものを排除して、抑制された表現を突き詰めていくアーティストなのに、作品を見ていくと、逆説的にその人のパーソナリティが見えてくるところ。なぜこれを選んだのか、ということが、何を選ばなかったかということによって、逆に浮き立って見えてくるところがあって、そこがグッときました」

© 2025 The Le Witt Estate / Artists Rights Society ( ARS ) , New York. Courtesy Paula Cooper Gallery.