歴史に埋もれた存在に光を当てるインスタレーションから、何を感じるか
ブラックの女性、ガイアナとバルバドス出身の移民の子、叙勲アーティストなど複合的なアイデンティティを持つイギリス人アーティスト、ソニア・ボイス。

「リヴァプールのブラック女性コミュニティの集会場でワークショップを行った時のことです。彼女たちに影響を与えたものを知るために、最初に買った黒人女性のレコードを尋ねました。驚いたことに、ほとんどの人が思い出せずに苦労していました。音楽業界に限らず、彼女たちは長いこと“使い捨てられ”、記憶に残らない存在だったのだと気づきました」
かつてのイギリスでは、女性アーティストが作品に参加しても記録されなかったり、ブラック女性歌手が職を得るために白人男性の名を名乗ったりした時代があった。これらの忘れられた女性アーティストの名前を展示するプロジェクトがボイスの「ディボーショナル(捧げられた)」シリーズだ。
「古い時代のレコードやカセットは高値になるけど、私が集めてきた女性アーティストの音源は手が届くものばかりなのです」と話すボイス。
プロジェクトは彼女の歴史を忘れることへの抵抗であり、小さな声を代弁し、構造上の格差に光を当てる試みでもある。表現法をブラックや他人種の女性アーティストの音源、彼女たちの名前が書かれた印刷物、そして壁紙へと昇華させ、20年を経た今も続いている。

この展示はまた、日本のラバーズロック・ファンたちが、懐かしい名前と再会するチャンスでもある。
最初のワークショップで一番多く名が挙がったというシャーリー・バッシー、「ラヴィン・ユー」のカバーで知られるジャネット・ケイら、イギリスのカリビアンコミュニティ出身の多くのミュージシャンたちには、1970年代から90年代の日本で、本国での人気を凌駕するスターダムを築いた歴史がある。
記憶のプレイリストを呼び起こしたり、知らなかった名前と出会ったりする、そんな楽しみ方もできそうだ。