京都の「余白のある店、余白のある人」。下鴨神社〈watoto〉

素晴らしい空間やサービスだって、提供する側にも受ける側にも気持ちにゆとりがないと楽しめない。私たちにほかでは得難い体験を与えてくれる名店の主たちはなおのことだろう。下鴨神社そばに25年2月オープンしたカフェ&バー〈watoto〉店主に聞いた、店のあり方と、“京都の余白”。

photo: Yoshiko Watanabe / text: Shiho Yoshida, Mako Yamato

鎮守の森に守られて日がな一日過ごしたい、刻一刻と表情を変える、一軒家のカフェ&バー

早朝から深夜まで、起きている時間の大半をこの場所で過ごす。「誰もいない時はカウンターの隅で本を読んだり、雨に濡れる庭をぼんやり眺めたり。店での時間も、自分を整えるためには欠かせないと感じます」と話すのは、〈watoto〉店主の硲真人(はさま・まひと)さん。店の裏手には世界遺産の下鴨神社を取り囲む原生林、〈糺(ただす)の森〉が広がる。

京都〈watoto〉外観
下鴨神社の西側を南北に走る下鴨本通沿い。サインはなく、通りに面した窓越しに見えるフジローヤルの焙煎機が看板の代わり。

この店のルーツは硲さんがまだ小学生の頃に遡る。僧侶である父の赴任先、福井・小浜市に越したのを機に、両親が始めた一軒のカフェだ。地域の人たちが昼夜集う寺子屋のような場所。現在の店の看板であるコーヒーとお酒に興味を持ったのは、その頃だった。

大学入学を前に京都に戻るが、時はコロナ禍。3ヵ月で見切りをつけて退学すると、カフェでコーヒー焙煎の修業を、20歳を迎えるとバーでカクテル作りの経験を積んだ。

そして、2025年の2月に〈watoto〉を母の実家の敷地にオープン。この古民家は、自身も暮らしていた祖父母の家。改装の設計を依頼した京都の建築家、平井純さんと共に生産者を訪ね、木材選びから取り組んだ。扉の小さな取っ手に至るまで、自然由来の素材で構成された贅沢な空間だ。

食のイベントや音楽ライブなども不定期で行う。この店は、硲さんが原風景を京都に再現し、自分に還るための、ある種の装置でもある。

〈watoto〉では、硲さんの母が提供するランチが終わると、日没を待たずに硲さんが焙煎するコーヒーとボタニカルなカクテルを提供するカフェ&バーに。硲さんは、ゲストに良質な時間を過ごしてもらうため、黒子として心を砕くという。体調や気分を聞き、会話を糸口にコーヒーの濃淡やカクテルを決める。「ここは、誰かの“居場所”でありたい。コーヒーやお酒はそのきっかけなんです」

アロマティックなカクテルを手に一日を締めくくる地元客の横で、深煎りのコーヒーを時間をかけて味わう旅人がいる。この場所を通じて感じる安堵にも似た感覚は、背景は違えど、きっとみんな同じだろう。

京都〈watoto〉店内
夕刻、西日が差し込む店内。福井で見つけたランプや日本楽器製造(現・ヤマハ)のヴィンテージピアノなど、すべてにストーリーが。

硲真人さんが語る、京都の余白

大好きな人やものが、店作りの糧になる

居心地のいいサービスや空間を提供するためにも、好きな人や好きなものとの時間を大切にしています。一番はスペインバルの〈RICO RICO〉。店主の牧野智樹さんはとても聞き上手で、会話をするだけでこちらの調子も整う。名物の魚料理とワインとともに、いつもエネルギーをもらっています。

京都〈デマチヤナギバル RICO RICO〉店内
地域に愛されるスペインバル、〈デマチヤナギバル RICO RICO〉
出町柳駅そば。常連からは「牧ちゃん」の名で親しまれる2代目店主の牧野智樹さんが、大原の野菜や福井で仕入れる鮮魚などを用いたスペイン料理でもてなす。15時開店で一杯飲みも歓迎。乗り換えの間など、隙間時間にふらり立ち寄っても。本日のピンチョス各400円、グラスワイン600円~。

店からもすぐの〈二十日〉には山野草の鉢植えを愛(め)でに。店主の栗山葉子さんは僕にとって、大好きな山野草の世界を広げてくれる先生。時間を見つけては足を運びたくなる場所です。

京都〈二十日〉店内
美しい生活の道具に出会える、下鴨の〈二十日〉
糺(ただす)の森へと続く小道にある一軒家の古道具店。京都の建築家・木島徹が手がけた奥行きのある空間に、来歴を問わずセレクトされた趣のある暮らしの道具が並ぶ。「骨董は使ってこそ」。そう話す店主の栗山葉子さんが大切に育てた山野草もまた、日々に潤いをもたらしてくれるアイテムの一つ。手に取りやすい価格も魅力で、山野草の鉢植えは1,000円前後から揃える。

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