ウイスキーと料理が交差する、一夜のペアリング
〈ハイランドパーク〉の故郷、スコットランド・オークニー諸島は、日照時間が長く風が非常に強い島だ。木がほとんど育たないこの荒野を、ピンクや白の小さな花を咲かせるツツジ科の植物、ヒース(ヘザーフラワー)が覆う。ピートの原料となるこのヒースは、燻したような、しかし甘さを帯びた独特のフレーバーを生み出す。
長い熟成を経るほど、その土地の個性はより深くウイスキーに刻まれていく。1798年に創業した〈ハイランドパーク〉は、この地で200年以上にわたり蒸留を続けてきた。
この夜のペアリングの舞台となったのは、ミシュラン一つ星を獲得した西麻布の日本料理店〈氣分〉だ。ユーゴ・ペレ=ガリックスシェフの料理は、藁焼きやジビエにハーブや柑橘を重ねるボーダレスな和食で、〈ハイランドパーク〉のスモーキーさやフルーティさ、スパイス感と響き合う要素を持つ。
コースはウェルカムドリンクの12年ハイボールから始まり、金目鯛の棒寿司、蛤と筍のお椀、鯖の藁焼き、唐津産マナガツオのソテーと料理が続いた。
メインとなる北海道産の鹿と椎茸・八丁味噌に合わせられたのが、〈ハイランドパーク 21年〉だ。2001年から2002年にかけて仕込んだ48樽から生まれた本作は、蒸留所のウイスキー製造責任者ゴードン・モーションが、風味の可能性と複雑さをもとに一樽ずつ選び抜いた。
アメリカンオーク由来のバニラとシトラス、ヨーロピアンオーク由来のスパイシーで芯のある風味、リフィル樽由来のフローラルな甘さが重なり合う。クレームブリュレのようなクリーミーな甘さとアプリコット、ライムゼストが複雑に広がり、余韻にはオークニーのヒースピートによるほのかなスモークが残る。燻製や野趣ある食材が持つ力強い旨みと、この複雑なフレーバーが重なる組み合わせだ。
コースの締めくくりとなる甘味に合わせられたのが、〈ハイランドパーク 25年〉。22樽のみから生まれたさらに希少な一本で、シェリー樽由来のスパイシーなノートをアメリカンオークの甘さで包み込み、リフィル樽でバランスを整えている。ピーチとみかん、ピスタチオビスコッティの芳醇な香りに、コリアンダーシードとオレガノのスパイスが溶け合い、甘くウッディな余韻が長く続く。コース全体の余韻を引き受けるにふさわしい深みがある。
さらにこの夜のラインナップには、3店舗でミシュラン三つ星を持つスウェーデン出身のシェフ、ビョン・フランツェンとのコラボレーションによる16年熟成「Between You and I」も加わった。2025年にリリースされた本作は、テイスティングノートの代わりに、飲み手自身の記憶や感情を言葉にするための小冊子が同封された、従来のウイスキー体験とは一線を画す一本だ。
この夜の主役である〈ハイランドパーク〉の「21年」と「25年」は、オークニー諸島という極限の環境と200年以上の蒸留の歴史が生み出した、唯一無二のシングルモルトだ。この2本を知れば、スコッチウイスキーの奥深さがまた一段と広がるだろう。
※本イベントを担当したユーゴ・ペレ=ガリックス氏は、2026年3月末をもって「氣分」を退任しています。





