5路線が交わる巨大ターミナル駅。1日かけて巡りたい北千住の5店

北千住駅は、JR常磐線、東京メトロ千代田線・日比谷線、東武スカイツリーライン、つくばエクスプレスの5路線が乗り入れる巨大ターミナル駅。江戸時代には日光・奥州街道の起点となる宿場町として栄え、2025年には開宿400年を迎えた。創業100年近い銭湯も現役で湯を沸かし続ける北千住を数年前にシンガーソングライアーのあいみょんが歌ったときには驚かされた。当時すでにその片鱗を見せていたのか、日本茶、アジア料理、デザインなど文化を軸にした店が着実に増えている。今も変化を見せ続けるこの街で1日かけて訪れたい5店を選んだ。


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photo: Hikari Koki / text: Nozomi Hasegawa

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HANOI&HANOI

ちゃぶ台でベトナム料理を食す

鮮やかなブルーのトタンが目印のベトナム料理店。1階は厨房とカウンター、ベトナムの雑貨や道具が並ぶ。階段を上がると一転、和室にちゃぶ台の日本的な景色が広がっている。店主の中根綾子さんは、2008年にこの店をオープンした。

「新婚旅行でベトナムを訪れ、ハノイからホーチミンまでぐるりと巡ったのが20年前。可愛い雑貨に美味しいご飯。感動の連続で、すっかりハマってしまいました。独立を考えていたとき、私が人に褒められるのは料理だと気づいて、バインミーの店から始めたんです」

その後、アラカルトからコース料理まで、季節の食材を使ったベトナム料理全般を提供する店へと広がっていった。

「ベトナム料理に慣れていないと、どうしてもフォーを選びがちです。だったらいっそ、一度にさまざまな料理を知ってもらえるメニューを作ろうと思って。メインにサラダ、デザートに飲み物まで。あれこれ組み合わせたらスペシャルなランチセットが生まれました」

そんな「スペシャルセット」は、フォーやブンボーフエ、そぼろごはん、バインミーからメイン2品を選び、海老と豚肉の生春巻き、季節のサラダ、ベトナムデザート、蓮のお茶とベトナムコーヒーまで付く盛りだくさんの一品。

メインのひとつ、バインミーの具材は日替わりで、フランスパンは近所の老舗〈ミサキベーカリー〉の特注品を使用する。サックリとしたフランスパンは、すべての具材の旨みや食感を引き立てる。バスケットに盛られたハーブもサービスで付いてくる。

「ベトナムの飲食店で料理を注文すると、必ずと言っていいほどバジルやミントなどのハーブの盛り合わせが別添えで提供されます。みんなそれをちぎってスープや麺に追加してモリモリ食べている。もともと薬味の文化がある日本人にもぴったりだと思ったし、料理にひと手間加えるのってなんだか楽しいじゃないですか。ベトナムの食文化をそのまま伝えたいという思いでこの店を営んでいるので、現地の食に少しでも触れて『ベトナムに行きたいな』と思ってもらえたら嬉しいですね」

Zelt Bookstore

週3日だけ開く、荒川沿いの本の店

「書店はいつかやりたいと思っていたんですが、まだ先のことだと考えていました。そんなときに駒沢の書店〈SNOW SHOVELING〉の中村秀一さんから『本屋を始めるために修業はしなくていい』と言われて。それですぐに動き出し、2023年の開業を決めたんです」と店主の伊藤眸(ひとみ)さん。

もうひとりの店主、柴山修平さんは「ここはもともと履物の店で、大きな土間があるのがいいな、と。それに足立区には、本や文化に触れられる場所が少ない。そういう場所だからこそやってみようと思ったんですよね」と続ける。

伊藤さんは画家として、柴山さんは内装設計やプロダクトデザイナーとして、それぞれ店外でも活動するため、店を開けるのは週に3日を基本とする。棚に並ぶのは、話題性や売れ行きではなく「自分たちが読みたいかどうか」を基準に選んだ本だけだ。

オープン当初はデザインや美術の本がメインの店だったが、現在は人文書や小説、絵本、Zineなど、様々なジャンルの本を扱う。そのひとつが、オープン当初から扱っているイタリアのデザイナー、エンツォ・マーリの作品集『AUTOPROGETTAZIONE?(セルフデザイン)』だ。

「ホームセンターで買える木材で作れる家具が掲載されています。私たちも『自分で作る』をテーマに店作りをしているのですが、まだ完成していないし、今も作り続けている。この本はそういう私たちに『自分で作るって楽しいでしょ』と言ってくれる存在なんです」と伊藤さん。

店内には、柴山さんがセレクトした雑貨も並ぶ。「グラスや箱など、抽象的なデザインの日用品や、僕が携わったプロダクトを扱っています。中央の棚に置かれているのは、自分でデザインをした照明『Joo(ヨー)』です。乳白ガラス製の半球型で、スタンドライトやペンダントライトといったラインナップがあります」

KiKi北千住

日本茶の新しい扉を、古民家の喫茶店で

2020年オープン。古民家で営む小さな喫茶店〈KiKi北千住〉では、オリジナルの茶葉で淹れた日本茶を提供している。

「茶師の5代目本多茂兵衛さんに出会い、日本茶の世界に深く引き込まれました。そこから、日本茶のある時間や日本茶という選択肢を暮らしの中に届けていきたいという思いが生まれ、喫茶をオープンしたんです」。そう語るのは店主のきさらちさとさん。夫の高木正太郎さんやスタッフとともにこの店を切り盛りする。

オリジナルの日本茶「muica」は全部で6種類。キレの良い煎茶に玉露をブレンドした「玉露煎茶 FUU」、ホワイトウィローやレモングラス、ミントなどをブレンドしたスッキリとした味わいの「ハーブ煎茶 SUISUI」など、まったく異なる味わいが揃う。

「やすらぎセット」は、お茶に甘味や食事を組み合わせて楽しめるメニュー。好きなドリンクと甘味を選び、さらにミニ抹茶か店セレクトのミニグラスティーがつく。

個性的なメニューも展開する「muicaコーラ」は、鹿児島県喜界島で無添加クラフトコーラを製造する〈TOBA TOBA COLA〉がレシピを監修。紅烏龍茶をベースとした華やかで香ばしい味わいが広がる。スパイスの刺激のあとにお茶の余韻が続く、茶葉をあつかう店ならではのクラフトコーラだ。

「『muica』は、まもなく創業100年を迎える〈富士山まる茂茶園〉から厳選した茶葉を使用しています。種類によって香りや味が異なるので、日本茶のイメージをいい意味で裏切ってくれるはず。お茶を通じて、その心地よさに気付くきっかけになれたら、と思っています」

タカラ湯

日本庭園が広がる宮造りの銭湯

1927年創業。1938年に現在の建物へ改築し、当時の宮造りをそのままに営業している。フロントの突き当たりから男湯の脱衣所へと続く縁側には、日本庭園が広がる。この縁側こそ「キングオブ縁側」と3代目店主の松本康一さんが自負するものだ。

「この庭園が作られた理由のひとつは、創業者の松本留次郎が庭師だったこと。普段は男湯に面しているのですが、水曜日は別。週に1回、女湯と男湯が入れ替わるので、そのタイミングで訪れる方も多いです」

井戸水を沸かしたお湯は柔らかいと評判で、通常温度は約42度。銭湯絵師の中島盛夫さんが描いた富士山を眺めながら体を温め、水風呂へ。この交互浴を松本さんは勧める。

「浴室が広い女湯には、セルフロウリュを楽しめるフィンランド式サウナも設けています。また、他の銭湯と比べて天井が高いことも〈タカラ湯〉の特徴です。オープンの15時頃に訪れると、天井高6mほどの窓から綺麗な光が差し込んで、これまた気持ちがいいんですよ」

すぐ近くの荒川土手はランナーの練習コースとしても知られる。タカラ湯に荷物を預けて走り、風呂で汗を流すという使い方もできる。

TAMBOURIN CURRY&BAR / ビリヤニ食堂

鰹節と出汁が、スリランカと日本をつなぐ

スリランカカレーとビリヤニを提供するレストラン。お酒も並び、バーとして利用する人も多い。

「カレーのベースにレンズ豆を使用し、旨味の補強として鰹節でも出汁をとっています。スリランカではカツオやキハダマグロを煮て燻煙・天日乾燥させた保存食『モルディブフィッシュ』が流通していて、現地の方はそれで出汁をとる。島国でかつ出汁文化があるのは、日本とスリランカだけと言われているんですよ」と店主の長田勇気さん。

「スリランカには素材本来の味を生かし、それらを『混ぜてよりおいしく食べる』食文化があります。カレーはじっくりではなく、短時間炒め煮るのが特徴。タンブリンのカレーもその調理方法にのっとって作っています」

「本日のスリランカカレー」は、日替わりのカレー2種に、小松菜のテルダーラ(=油炒め)や、ゴラカ(ガルシニア)のチャツネ、ビーツのキラタ(=ココナツミルク煮)などの付け合わせを少しずつ混ぜながら食べるのがこの店の流儀だ。

この日の日替わりメニューは「香菜と梅干しのトマトカレー」「抹茶とほうれん草のサグカレー」と和の素材を取り入れた2種。トマトカレーは梅干しの旨味が後から追いかけてくる。

シメのデザートには自家製の「大人のカスタードプリン」(¥540)もある。卵を多めに使用しビターなカラメルと合わせた硬めのプリンは、甘すぎず素朴な味わい。「お腹いっぱいと言いながら食べてくれる方も多い人気のデザートです」

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