「東大はバズらないでほしい」今もっともかわいい曲を作れる東大卒の音楽プロデューサー・ヤマモトショウが大学で学んだことは?

〈FRUITS ZIPPER〉「わたしの一番かわいいところ」「NEW KAWAII」など、近年のヒットチャートを代表するアイドルソングを多数生み出し、静岡発アイドルグループ〈fishbowl〉のプロデュースを務める音楽プロデューサーのヤマモトショウさんは、2011年に文学部の哲学科を修了した東京大学の卒業生だ。〈fishbowl〉の活動では自身も静岡県出身として、行政や地元の企業、スポーツチームなどと積極的にコラボするなど、多彩に活躍するヤマモトさんが考える大学、学問の意義とは。東大・本郷キャンパスを訪れて当時を振り返った。

photo: Kazufumi Shimoyashiki / text: BRUTUS

アイドルの子たちから「クイズを教えてください!」と言われる

仕事の様々な場面で自分のプロフィール文の提出を求められることがありますが、昔は自分から「東大卒」とは書いていなかったんですね。でもある頃から、勝手に書いてあるようになった(笑)。作曲家のプロフィールの1行目に学歴がくることってあまりないと思うんですが、(音楽における)サビはじまりみたいなものかと理解するようになりました。

自分の場合は、10代の頃に音楽に関する経歴がなく、何かのオーディションに合格したわけでもない。東大の駒場キャンパスに通うために下北沢に住み始めて、それでバンド活動を始めましたから、「東大合格」が最初にくるのが時系列的に自然ということになる。

ヤマモトショウ
ヤマモトショウ/1988年静岡県生まれ。2006年に東京大学教養学部理科一類に現役合格。学内の進学選択で一度は数学科に進学するが、途中で文学部の思想文化学科哲学専修課程に転部。2011年に卒業。在学中からバンド活動を始め、2012年からは「ふぇのたす」のメンバーとして活躍。2015年の解散後は作詞家、作曲家、音楽プロデューサーとして活動。〈FRUITS ZIPPER〉「NEW KAWAII」「かがみ」は日本レコード大賞優秀作品賞も受賞した。2021年からは静岡発アイドルグループ〈fishbowl〉のプロデューサーとしても活動する。

今、静岡で活動していると、地元の企業や行政機関に勤める東大出身の方に会う機会もありますし、東大卒というと、やっぱり信頼度が増すところはあると思います。東大卒という経歴を、自分が使っている感じなんですかね。相手も使っているところはあると思う。「この人は東大卒だから、ちゃんとしてますよ」と。レコ大とかと一緒です(笑)。レコ大を取っていれば作曲家としてちゃんとしてる、みたいな。

アイドルの子たちからは「今度クイズ番組に出るので、クイズを教えてください!」と(笑)。ここ数年のバラエティ番組の影響で、そういった意味での「東大卒=かしこい人」というイメージは強まっていますね。討論系のバラエティに出ることになったアイドルの子からアドバイスを求められたりとか。その子たちの周りに東大出身者があまりいないということかもしれません。

〈FRUITS ZIPPER〉「わたしの一番かわいいところ」(2022年)作詞・作曲・編曲:ヤマモトショウ。

自分より明らかにスペックが高い人に出会う経験

実はこの取材の前日に、大学受験の日に使ったホテルに泊まってみたんです。でも、何も思い出せなかった(笑)。

唯一思い出したのは、受験の当日、お昼の休憩時間にあまりお腹が空かなくて、持っていった昼食を食べられなかったんですよ。緊張していたんだなと思っていたんですが、朝、ホテルの朝食バイキングを食べすぎたからだったんだと気づきました……それくらい、余裕があったんですよね。東大に行くこと自体は、自分にとってはそれほど特別なことではなかった。受かるだろうなと思っていましたし。

でも、通ってよかったなとはすごく思っています。数学科では本当に自分より頭がいい人に出会うことができた。ゼミ形式の授業で、自分がある問題の解法を考えて発表してなかなか上手くいったなと思っていたら、その次に発表した人の解法の方が明らかにすごかった。10年考えてもこんなアイデアは出ないと思いました。

全く同じことをやったときに、明らかに自分よりスペックが高い人に出会う経験って意外とない。音楽にも同じようなところはありますが、やっぱりそれぞれやっていることはちょっとずつ違うし。その経験は悔しかったけど諦めにもなりました。上には上がいたから、自分は今音楽をやっているんだと。

ヤマモトショウ

音楽家にならなかったら、研究者になっていたかも

もし音楽家にならずに就職していたら……とは、自分はあまり考えなくて。大学に入った頃は研究者になりたいと何となく考えていましたし、音楽家にならなかったら大学に残っていたと思います。好きなことをやりたいと考えていました。

大学時代は人生で一番勉強した期間で、図書館にいた時間が一番長かった。その頃に勉強していたから、勉強の仕方がわかるようになったと思います。

数学科に入るときに「集合と位相」という演習の授業があって、それがすごく厳しいんです。一問を解くのに何時間もかかるし、授業では前に出て発表して、先生にめちゃめちゃ突っ込まれる。トレーニングになりましたね。これくらいやらないといけないんだという感覚を持つことができた。社会に出ると、みんなやさしいですから。お金を払って教えてもらいにいっている場では、やさしい。一方で仕事は結果がすべてで、ダメだったら次はない。先生に容赦なく鍛えられる時間というのは貴重だったなと、後から振り返ると思います。

今でももっとゆっくり勉強する時間を持ちたいなと思いますし、アカデミアに対する漠然とした憧れはありますよ。でも、音楽を作ることも、今流行っているものがあって、自分がこれまで作ってきたものがあって、そこに答えを出していく作業ですし、世間の反応がくれば、それは先生からの突っ込みのようなものかもしれない。何というか、ずっとそんな日々ですね。

ヤマモトショウ

もしも東大の校歌を作るとしたら……

東大って、校歌がないんですよね。やっぱりハードルが高いんじゃないですか。今更誰が作るの?と、どうしてもなってしまう。もしも自分に依頼が来たら?コンペだったらやりますよ(笑)。誰に決定権があるのかとか、そういうことが気になってしまって。自分が東大全体を代表する音楽家とはとても思えないし。松尾研がAIに作曲させて作った校歌とかの方が、東大っぽくないですか?プロデューサーなので、そういう視点で考えてしまいますね。

東大で講義ができるとしたら……例えば、今自分の周りで、哲学を勉強したいという声をよく聞くんです。それはAIの普及とも関係していると思う。いよいよ人間にできることはそこしか残っていないと。僕ら音楽家も、これから何をやっていけばいいんだろうと。そういうことを考えるような会がやってみたいです。

東大生って今何になりたいんだろう、僕らの世代だったら音楽家とか研究者とかそういうお金になりにくい仕事に就こうとしていたような人たちが、今はどんなことを目指すんだろうとか。最近はそれこそ「バズる曲を作る」みたいなテーマで大学に呼ばれることもあるんですが、せっかく大学でやるなら、そういうことがやりたいですね。

数学科や文学部の研究室って、空気が違うんです。そういうのっていいし、大事だなと。だから、東大は僕とかに校歌を頼まないでほしい(笑)。やっぱり消費されると、常にそれをやらなければいけなくなりますから。僕らが作っているアイドルのように最初からそこを目指して走り切るために設計しているものと、アカデミックなものというのは違う。東大にはバズらないでほしい。浮世離れした感じであってほしいなと思います。

ヤマモトショウ

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