『わたしは最悪。』のヨアキム・トリアー監督に聞く、新たな傑作『センチメンタル・バリュー』のこと

『わたしは最悪。』などで知られる、ノルウェーのヨアキム・トリアー監督の待望の新作『センチメンタル・バリュー』がいよいよ公開される。昨年のカンヌ国際映画祭でグランプリを獲得したのみならず、その後ヨーロッパ映画賞作品賞など数々の賞を受賞し、今年のアカデミー賞でも、外国語映画ながら作品賞を含む8部門9ノミネートを果たした話題の映画だ。それらの授賞式に参加するために、現在世界を飛び回っているトリアーに何とか時間を作ってもらい、特別に話を聞くことができた。

text: Mikado Koyanagi

“家”がこの映画のもう一つの主役と言っていいかもしれません

話を聞いた人:ヨアキム・トリアー(映画監督)

『センチメンタル・バリュー』は、トリアーの6作目の長編映画だが、前作の『わたしは最悪。』と、長編デビュー作の『リプライズ』、そして2作目の『オスロ、8月31日』が「オスロ三部作」と呼ばれるのに対して、今作もオスロを舞台にしているにもかかわらず、そのトリロジーから外したのはなぜなのか。

『センチメンタル・バリュー』
ヨアキム・トリアーの最新作。『わたしは最悪。』のレナーテ・レインスヴェ主演。配給会社ギャガが新しく立ち上げたアートハウス映画レーベル〈NOROSHI〉の第1弾作品となる。2月20日、全国順次公開。

「私がオスロ三部作と位置づけている作品は、20代の若者たちを中心に展開する自分探しの映画です。それに対して、今作は異なる年代の人たちが関わってくる家族の物語ですよね。その家族の中で、語られていないけれども受け継がれてきた悲しみとか、そうしたことを様々な人たちの角度から描く作品であるという点で分けました」

舞台俳優として活躍するノーラ(レナーテ・レインスヴェ)と、夫と息子との家庭生活を営むアグネス(インガ・イブスドッテル・リッレオース)の姉妹の前に、彼女たちを捨てずっと音信不通だった映画監督の父グスタヴ(ステラン・スカルスガルド)が突如現れる。

復帰作となる新作の主演にノーラを迎えたいと言うのだ。ノーラはその申し出を拒否するが、その役をアメリカの人気若手俳優レイチェル(エル・ファニング)が演じることになったこと、そしてその撮影が彼女たちの実家で行われることを知って激しく動揺する……。

左が父グスタヴ役のステラン・スカルスガルド。右が姉ノーラ役のレナーテ・レインスヴェ。
左が父グスタヴ役のステラン・スカルスガルド。右が姉ノーラ役のレナーテ・レインスヴェ。
©2025 MERFILM / EYE EYE PICTURES / LUMEN / MK PRODUCTIONS / ZENTROPA ENTERTAINMENTS5 APS / ZENTROPASWEDEN AB / KOMPLIZEN FILM / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / ARTE FRANCE CINÉMA / FILM I VÄST / OSLOFILM FUND / MEDIEFONDET ZEFYR / ZDF / ARTE

「脚本は、私の個人的なことから出発しました。もちろん、私の話ではないのですが、私の祖父も映画監督でしたし、こうした芸術家のいる家族には馴染みがあります。思い出というのは、場所の記憶を伴うものですよね。

この映画では、姉妹のみならず父親が育った家が、その祖先の背負った悲しい記憶までをもずっと見続けてきました。確かに、“家”がこの映画のもう一つの主役と言っていいかもしれません」

左が妹アグネス役のインガ・イブスドッテル・リッレオース。 右がアメリカの女優レイチェル役のエル・ファニング。
左が妹アグネス役のインガ・イブスドッテル・リッレオース。右がアメリカの女優レイチェル役のエル・ファニング。
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トリアーの映画は、DJでもある自身の選曲がいつも魅力的なのだが、この映画では、知る人ぞ知るテリー・キャリアの「ダンシング・ガール」が冒頭を飾る。

「実は、昨年の6月に東京と京都を建築家の妻と旅行したんですが、あるバーでレコードでかかっていて、ふと耳にしたのがその曲だったんです。ノルウェーのサブカル文化は、日本のそうしたマニアックなレコード文化とも相通じるところがあって、ヨーロッパの端っこにありながら、世界中の音楽を貪欲に探し求める人たちがいるんですよね。私もそうでした。若い頃、ピチカート・ファイヴも聴きましたよ」

この映画には、それ以外にも日本からの影響があるという。「あと、日本の映画、例えば小津安二郎にもインスピレーションを受けた部分があります。特に『晩春』ですね。小津のあの興味深い切り返しのショット。一方がカメラを覗き込み、切り返しの相手の話を傾聴するような。

今作では、妹のアグネスがまさに小津的な存在です。口数は少ないけれど、彼女がこの映画の核心というか魂を伝えてくれる。そうした思いを一番込めた役が彼女であって、それは私からのささやかな日本映画へのオマージュでもあるのです」

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