世の中の多次元性を理解する。東大人気講義録:四本裕子先生の「認知脳科学」

東大の講義は難解なものばかりかと思っていたけれど、時間割を見ると刺激的なテーマであふれている。理系、文系の枠を超えて、新しい世界を知り、教養を育む喜び。東大の授業ってこんなに面白かったのか。


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photo & text: BRUTUS

講義の概要

人間の「脳」について、基礎知識から最新の研究まで、基本的な内容を一通り学べる講義。脳の大きさや形状といった話題から、人類がいかにして脳を知ってきたのか、視覚、聴覚、味覚、嗅覚などの人間の知覚、記憶や睡眠などと脳の関わり、近年の研究成果など幅広いテーマを扱う。大講堂で行われ毎年数百人が受講する人気講義。

Point1:レオナルド・ダ・ヴィンチも脳の形はわからなかった

認知脳科学の大きな特徴は、高校までの教育には該当する科目がないこと。多くの学生が初めて系統立てて脳について学ぶことになる。

「最初に話すのが“おでこから頭の後ろまで、脳ってどれくらいの大きさだと思う?”と。25cmくらいを手で示す人もいますが、実際には15cm程度。思っているより小さいんです。ちなみに、折り畳まれている脳を延ばすとA4紙3枚分くらいの広さがあります」。

脳科学の歴史も講義の序盤で扱われるテーマだ。脳について格段に研究が進むのは20世紀に入ってから。世紀の天才、レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた人体解剖図も、脳の形だけは実際と全く異なっていた。「それくらい、脳は難しいということなんです」

Point2:時間の流れを専門に認識する部位は脳にはない

講義は視覚や聴覚など人間の五感を題材に進んでいく。それが一番わかりやすいからだ。例えば視覚であれば、目に光が入り、それが細胞の働きによって電気信号に変わり、その電気信号が神経細胞同士を伝わることで、「見えた」という感覚が生まれる。

脳の中には目で見た情報を処理する視覚皮質、耳で聞いた情報を処理する聴覚皮質などがある。一方で、時間の流れについては、それだけを専門に処理する部位が脳にはない。複数の部位を使って処理しているのだ。

「数百ミリ秒というような非常に短い単位から、1秒、1分、1時間、1日、1年……と、単位によって関連する脳のメカニズムも違ってくる。時間というのは本当に不思議な感覚です」

Point3:今日は私のアルファ波をお見せしましょう

脳機能の測定技術は年々進化している。「昔はものすごく大がかりな機械を使って測定していましたが、今は持ち運びもできるし、ワイヤレスでデータを飛ばせる簡易的なものまである。そういった測定器を持ち込んで、“今日は私の脳波をお見せしましょう”と言って、自分の脳波をリアルタイムでスクリーンに映すことがあります。

例えば、リラックスしているときに出ると言われるアルファ波は、実際に目を閉じるとよく出て、目を開けると消える。目を開けたり閉じたりするだけで、アルファ波が減ったり増えたりするのが見られるんです」。簡易的な測定器だと、イヤホンジャックからPCにつないで、WAVファイルとして脳波を入力するのだとか。

Point4:脳は世間で言われるほど単純ではない

「教養課程でこの講義を受けて、認知脳科学に興味を持ってくれた学生が、最終的には私のラボに来てくれて一緒に研究ができたらいいな」。そう語る先生だが、将来的に脳科学とは直接関係のない職業に就く学生にも、必ず伝えたいことがある。

それは……「世間のインチキ脳科学がいかに間違っているか(笑)。それに気づけるようになってほしい。真摯に科学的に議論すれば、そんなに単純な話にはならないんだと。脳に限らず、世の中、何でも白か黒に分けたがる傾向があるけど、実際はもっと多次元。それをざっくり単純化することがいかに無責任になり得るか。学生には、世の中の多次元性をよく理解できるようになってほしいと常々思います」。

講義の参考書

『博士が愛した論文 研究者19人が語る“偏愛論文”アンソロジー』
『博士が愛した論文 研究者19人が語る“偏愛論文”アンソロジー』
「本を書く暇があったら論文を書きたい」。そう語り、これまで一般書を発表したことがない四本先生が、唯一寄稿したアンソロジー。宇宙、人体、植物、恐竜など、各分野の研究者がお気に入りの論文1本を熱く語っている。先生は時間知覚に関する論文とその著者にまつわる話を寄稿。日経ナショナル ジオグラフィック/2,420円。
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