「アレンジ・メロディ」からMrs. GREEN APPLEを考える。解説:ヤマモトショウ

なぜ今、日本中がミセスに夢中なのか。アレンジ・メロディの側面からその理由を音楽プロデューサー・ヤマモトショウさんと考える。


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text: Katsumi Watanabe

解説:ヤマモトショウ(音楽プロデューサー)

1988年静岡県生まれ。ソングライター、編曲家。バンド〈ふぇのたす〉のギタリストとしてデビュー。その後、FRUITS ZIPPERら数多くのアイドルやシンガーへ楽曲提供。fishbowlのプロデュースも手がける。

ポップな楽曲の裏に隠された技を知る

意識的にMrs. GREEN APPLEの編曲を聴いてみると、実はバンド特有のアレンジがないことがわかる。これが、実はすごいところなんです。普通の音楽家なら、自分の好みに固着してしまいがち。しかし、ミセスは常にリスナーの方を向いていて、多くの人の心を動かし、聴いている人たちをハッピーにするよう、最新のアレンジに仕立てている。個性がなくなる恐れがありますが、大森さんが歌い始めた途端、ミセスの曲になるから驚かされます。

それでもフェーズ2の編曲に関しては、大胆かつ野心的なアレンジを導入し、新しいスタンダードを作ろうという気概を感じていて。ダンスミュージックを大胆に取り入れた「ダンスホール」は、ロックバンド然とした作風から離れ、ポップスとしての完成度の高い音楽性を選んでいます。

それから、SNSでの音楽の広がりを意識し、キャッチーなサビから始まる楽曲が増えている昨今。それに対するように「ライラック」では、特徴的なイントロをつけ、そのギターリフ自体をバズらせるという結果を出している。流行とあえて逆行した楽曲を成功に導いていること自体、バンドが持っている勢いを象徴していると感じました。

僕はバンドで活動していた頃、実はミセスとは同じレコード会社で、デビューの時期も近かったんです。今は主にアイドルやシンガーへ楽曲を提供していますが、みんなミセスが大好き。同期が国民的なバンドになるなんてちょっと自慢ですね。

ダンスホール

初期衝動を表現するのがバンドサウンドの醍醐味だと思いますが、それとはまったく違う、上質な音楽を「フェーズ2」のスタートでパッと出した感じがしました。最大の違いは、ブラックミュージックの要素を取り入れたリズム感。

現在は多くのアーティストが取り入れているスタイルですが、マニアックに偏ることなく、メジャーでも成立する部分をしっかり取り出し、スタンダードになり得るようなポップスを作ろうとしている。メロディも良く、聴いていると体が動くような軽快なリズム。

また、賑やかなホーンセクションにも華がある。こういう楽曲はライブでの再現が難しく、トライするバンドはこれまでなかなかいなかったので、最初に聴いた時は驚きました。

2022年の配信シングル。「フェーズ2」が開幕し、「ニュー・マイ・ノーマル」に続いて発表。ミニアルバム『Unity』収録。ストリーミング総再生数は8億回を突破。情報番組『めざまし8』(フジテレビ系列)テーマソングとして書き下ろされ『第74回NHK紅白歌合戦』で歌唱された。

ライラック

僕は「ポップス界におけるイントロの復権」と呼んでいますが、本当に革命的な曲だと思います。曲自体もめちゃくちゃヒットしていますが、世の中のギターキッズたちが、こぞってイントロのギターリフをコピーしたんですよ。過去を遡っても、国民的なポップスターの楽曲で、「弾いてみたい」という欲望をかき立てるギターフレーズは、なかったんじゃないかな。

自分も実際に弾いてみました(笑)。難しいけど、真似したくなるという絶妙さがポイントだと思います。どこまで戦略的に仕掛けたのかは不明ですが、大サビなどの曲のピークではなく、イントロで話題のポイントを作れるというのは、ミセスが別のフィールドに行った、象徴的な出来事だなと思います。

2024年の配信シングル。ストリーミング総再生数はこれまでに9億回を突破。テレビアニメ『忘却バッテリー』(テレビ東京系列)のオープニング主題歌としても話題となった。「第66回日本レコード大賞」では、前年に続き大賞を受賞。バンドでは史上初となる2年連続での受賞となった。

ケセラセラ

「ダンスホール」の方向性を踏まえた、モータウン的なリズムがありながらも、よりJ−POP然とした方向に落とし込んでいる。ブラックミュージック的なメロディは英語の方が合うところがありますが、日本語をしっかりと乗せることで、ポップスに昇華させているのがすごい。「限界?上等」とか口ずさみたくなるほどキャッチーだし、曲のピークだと思いますが、ここで英語にせずに日本語をはめていることが大きいと思いますね。

「ダンスホール」の時は、まだ新しい音楽性が、ファンに受け入れられるかどうかわからなかった分、少し手探りしていたと思うんですけど、「ケセラセラ」で「迷いがない」と感じました。「フェーズ2」の核心的な部分の一つですね。

2023年の配信シングルで、5枚目のオリジナルフルアルバム『ANTENNA』に収録。ストリーミング総再生数はこれまでに8億回を突破。ドラマ『日曜の夜ぐらいは…』(テレビ朝日系列)の主題歌としても話題となった。この楽曲でバンドは「第65回日本レコード大賞」を受賞した。

GOOD DAY

タイトル通り、聴いているうちに体が動きだすようなリズミカルな楽曲。日本のポップミュージックの歴史を遡っても、紅白歌合戦の白組トリをこの曲が飾ったのは大きな出来事だと思います。

紅白のトリに人が何を求めるかって、なかなか難しいところもある。それに見事に応えていました。自分もテレビで観ていて、どこか暗いニュースの多かった年の瀬をしんみり迎えるより、前向きで明るい曲を聴きながら、新年を迎える気持ちになりました。大森さんは「GOOD DAY」のような明るい曲はもちろん、バラードを歌ってもうまい。シンガーとして説得力があるので、いつか紅白でバラードを歌う姿も観てみたいですね。

2025年の配信シングル。4月から続いた6ヵ月連続リリースの6曲目となった楽曲。キリンビールの《キリングッドエール》テーマソングとして書き下ろされた。ミュージックビデオにはCMと同じ豪華キャストが出演。バンドが白組トリを務めた『第76回NHK紅白歌合戦』でも歌唱された。

僕のこと

大森さんにしか出せない、広い音域が印象的なバラード。これもミセスの楽曲の特徴の一つだと思います。音域が広いので、まるでメロディがジャンプしているような曲を作ることができる。歌声は単に高い、低いというより、その間を行き来することで、心が動かされることが多い。それで絶対にいい曲になるかというと話は別ですが、「僕のこと」は多くのリスナーの琴線に触れることに成功しています。

そんなボーカルが中心ですから、アレンジはシンプルで十分だと思う。弾き語りに近いバージョンも聴きましたが、曲の壮大さが伝わってきました。作曲家としては、作っても実際にシンガーが歌えない場合も多いので、なかなか手が出せないタイプの楽曲です。

2019年の8thシングル。『第97回全国高校サッカー選手権大会』応援歌として書き下ろされた。22年には大塚製薬・カロリーメイト受験生応援シリーズCM「狭い広い世界で」篇にて、オーケストラアレンジで再録された「僕のこと(Orchestra ver.)」が起用され、23年に配信。

StaRt

大森さんが10代の頃に書いた楽曲。僕のバンド時代、ミセスと同じレコード会社だったので、スタッフから音源を聴かせてもらったんです。その時に聴いたのは、内省的な雰囲気の曲でしたが、「StaRt」はいきなりめちゃめちゃ明るくなっていて驚きました。

サビの冒頭が、移動ドで言うところの「ドレミファソラシド」というメロディになっていて、これはこの世で一番シンプルな旋律とも言えるので、よほどの自信がないと使えない。だから、「若いのに、度胸があるな」と思ったのが第一印象。ただ、大森さんも当時からボーカリストとしての力量はありましたから「シンプルが一番いい」ということを理解し、すでに打ち出していたと思う。早熟すぎますよ。

2015年リリース、メジャーデビューミニアルバム『Variety』のリード曲であり、1曲目を飾った楽曲。文字通り、ミセスはこの曲でメジャーレーベルでのスタートを刻んだ。アニバーサリーライブ『MGA MAGICAL 10 YEARS ANNIVERSARY LIVE〜FJORD〜』でもラストに披露された。

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